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桜。

日暮里の繊維街の交差点で咲いてたんで撮ってみた。

まだ満開じゃないけど綺麗。



さて、これから久し振りに甘露と会うしすっげ楽しみ!!

Blood of restriction and oath 禁書(七血SS)

彼が、世界から消えてしまってからかなりの時間が過ぎた。今の私に時間の概念などない。元々冥使はヒトの時間から置き去りにされているから時間には無頓着だった。夜に起きヒトの血を啜り、朝には眠るだけの単調な日々。あまりにも変わり映えのしない毎日に、彼が死んで何日が経過したのか数えるのも馬鹿らしくなって止めてしまった。
ヒトよりも何百年も遥かに長く生きるんだから、きっと数えるだけ無駄なのだろう。

「…どうして、あの時殺してくれなかったんですか…」

何百回も繰り返してきた自問は誰にも応えられる事なく闇に消えてしまう。
あの森には居られなくなって身一つで出てきた。流浪する内に数人の上級冥使に会い、冥使が生きる意味を尋ねてみたが面倒臭そうに表情歪めるだけで誰も何も教えてくれない。
冥使は群れる事などなく仲間意識もない為に当然といえば当然なのだが。

そんな冥使達でも東の方で祓い手達による一斉駆除が行われた、などという情報は教えてくれた。彼が死んでから祓い手達は容赦なく冥使を狩り始めたらしい。穏健派の彼が死んだ上にフレデリック達が殺されたのは冥使の仕業だから復讐の為に冥使を殲滅する、と聞いた。それがたとえ央魔の守り役の冥使だとしても例外ではなく。

「……一部は私の仕業ではないんですがね」

木枝の上に座り、遠くの東の方から煙やカラスが一斉に飛び立つ様子を身ながら小さく呟く。ただ真実を話したところできっと信じて貰えないだろう。幾ら祓い手の人達と知った顔とはいえ、私が冥使であるというたったそれだけの理由で。

元より弁明するつもりも無かった、ただヒトの温もりを知った以上は独りは想像より辛くて。

「……貴方が生き返ってくれたなら…」

願いをぽつりと呟いたもののすぐにそれは愚かな考えだと思い至り、小さく自嘲した。木の幹に背を預けて闇夜に浮かぶ月を眺めてからそっと瞼を下ろした。

瞼の裏に描くは徐々に風化し始める過去の日々。あんなに長い間、傍にいたのにどんな声をしていたか思い出せず、顔すらも靄がかかったように朧気に変化していく。
このまま更に年月が過ぎれば私は彼の容姿を忘れてしまうだろう、私の意思とは裏腹に。

そう考えると酷く寒気がして小さく身体を震わせた。忘れたくない人も思い出も長すぎる生によって徐々に風化されていき、きっと途中からは何も残らない。私の意思に反する脳に対して思わず眉間に皺を寄せ誓った。


――絶対に忘れさせやしない、と――








それから半年。彼が死んでから一年が経過した。相変わらず祓い手による冥使狩りは激化している。安住の地などなく休んでは逃げ出す日々。祓い手と冥使なんて、勝敗はかなり冥使に分が悪い為に戦う事は出来なかった。今は使われていない小屋に隠れているが、きっとそのうち見つかるだろう。その前に逃げ出さなければならない。その間にも掌から零れ落ちる彼の顔、声、温もり。

整った童顔でグレイの髪と瞳を持っていて、少しだけ低い声、で……。

愕然とした。彼の特徴的な部分は言葉に出来るのに、脳内に描く彼は靄がかかったように不鮮明で何も思い出せない!


「嘘だっ、こんなの!私が彼を忘れる筈なんて!!」


「……見ぃ、つ、け、た…」


ゾクリと背筋に悪寒が走る。静かに紡がれた愉悦交じりの声の方向へ視線を向ければ小屋の扉が少しだけ開き、青い目が隙間から見えた。

更に視線を感じ窓に視線を向けると窓枠の隅から少しだけ頭部と黒い目が見える。更にもう一つの窓からも。室内は暗い上に夜目が利く為、不自由は感じないが包囲され狩られる立場に立つのは不安感が沸き上がり、そう思う事自体が不快だった。
だからといって無抵抗でやられる訳にはいかない。生きる意味など分からなくても、生きてるのか死んでるのか分からない毎日でも、死にたくなかった。何となく、今死んだらいけない気がした。

瞳を紅くした瞬間に三方向から発射される銃弾。だが身体を反らしてギリギリ避ける事は出来た。長い舌を伸ばして前の人間を攻撃しようとした矢先、



――パァンッ



後ろの方から響く音。肩が熱くて身体に全く力が入らない。緩慢に後ろを振り向くと勝手口が少しだけ開いていて。三方向は囮で、後ろの勝手口からの狙撃が本命だった事にやっと気付いた。

流れ落ちる血。身体に力が入らないのは冥使が嫌うアルブム銀が銃弾に使われた所為で。濃厚な鉄の匂い、服を伝って徐々に床に広がる鮮やかな紅。

「……流石に、無理か」

小さく自嘲して身体が崩れ落ちないように足に力を入れながら流れる自分の血を見つめる。不意に、脳裏によぎった光景。


『上級冥使の血を使って土人形を作るとか興味深』


遥か昔に失われた技術。読んだ記憶を辿るとところどころ紙やインクの劣化に読めない部分も多々あった禁書。

凄く愚かで馬鹿げた考えだと分かっている。けれど、絶対叶わない事も僅かな可能性が…奇跡が起こるならそれに賭けてみたくなった。

「…邪魔だ」

小さく呟き右手で片目を覆うと目の前の青い目と視線を合わせて一気に赤く光らせた。途端に見開く青い目は慌てた様子で室内に入り、私の横を通り過ぎて辺りを見回す。

「どこだ、どこに行ったんだ!?」
「馬鹿ッ、何して」
「やめっ、ぎゃあぁぁっ!!」



周りが静かになった頃にはその場には私以外誰も生きていなかった。床に横たわり青い目を濁らせた男の喉から長い舌を引き抜く。やはり彼の血に比べれば不味くて表情を歪ませた。回復に必要な血も十分に得たお陰か先程撃たれた痛みはもうない。後ろ手に手を回し肩の傷に指を入れて抉ると固い感触があり、それを取り出せば傷口はすぐさま癒着し始める。それを感知すると手にしていた弾丸を床に放り投げ、外に出た。
辺りに立ち込める濃厚な血の臭い。室内にいる男と同じように男達三人も屍と化していた。青い目の男の手によって。

上級冥使には霧化の他にも能力があり、その中の一つに催眠がある。対象者と目を合わせるだけで相手の五感を奪えてしまう。
今回は先ず男の視覚を奪い、私を視認出来ないようにさせて、動揺し部屋に入った段階で血で判別されないように嗅覚も奪う。そして窓や勝手口から覗く目を冥使特有の赤だと認識させた上で仲間の声が聞こえないように聴覚も奪えば、後は見守るだけだった。

壁や窓、地面に大小の赤い華を咲かせるのを見ながら侮蔑を込めて小さく笑う。きっと今まで下級冥使や上級でも催眠系が不得手な冥使ばかりを狩っていたんだろう。もしくは今まで沢山の冥使を狩っていた事で上級冥使相手でも自分達は大丈夫だ、と傲っていたのかもしれない。その証拠に私を貫く弾丸は肩だった上に被弾した後にすぐさま他の連中も射撃はして来なかった。冥使が苦しむ様に悦を覚えてじわじわとなぶり殺すつもりだった事が感じとれる。

だがそんな人間達を殺してしまった今はもう関係ない。それよりもやらなければいけない事があった。すぐさま霧化して森の中を駆ける、一刻も早く辿り着きたくて。

「フレデリック、待っていて下さいね…」






七日七晩駆け続けた結果、十年程住んでいた村に漸く辿り着いた。霧化し続けまともに休まなかった為に体力など随分と無くなっていたが、手近にいた人間を襲撃し血を得たお陰で幾分かは回復する事が出来た。

闇に紛れながら早速書庫に行き、目的の為に必要な禁書を何冊も持ち出し中身を確認する。ところどころ読めない部分はあったが今なら途方もない願いすら叶いそうな気がしていた。

そして、村の中にある墓場から彼の墓を探し出して地道に掘って暴く。墓土も大切な材料である為、その辺に投げ捨てる事はせず大事に用意した器の中に入れていく。祓い手達が起き始める朝までに掘り起こさなければいけない。村の長であった彼の墓を暴かれたと知れればきっと厳重な結界を張られ、彼の死体は二度と手に入らないだろう。
少しずつ闇夜が白み始め、焦燥感を覚える。漸くスコップの先にカツン、と何かが当たった音がした。急いで堀り上に乗った土を払うと人が一人入れるぐらいの大きさの柩が出て来る。

恐る恐る柩の蓋を退かすと中から乾いた肌。枯れ木のように細い、人の姿が現れた。肌も変色し酷い腐臭漂わせるそれは自分の知ってる彼とはすっかり異なり変わり果ててしまったけれど、確かにフレデリックだった。
目に熱いものがこみ上げた気がして。数回瞬きしてから、冥使よりも温もりを失い、二度と抱き返される事のないソレを抱き締めた。記憶から忘却してしまった彼を思い出すように長く、長く。
これで彼を蘇らせる為に必要なものが揃った。
……否、蘇らせるとは語弊があるかもしれない。彼を作り出す、と言った方が正しい。私の血と墓土と彼の骨で。本当に成功するかは分からないけれど、絶対の意志で挑めば成し遂げられる気がした。

一つ深呼吸して腕の中にある朽ちたそれに小さく笑みを向け立ち上がった刹那、頭に何か固く冷たい物が押し当てられた。

「…あなた冥使ね、こんなところで何やってるの?」

静かに咎める女性の声。気配に全く気付けなかった。彼の身体を見つけて少し浮かれていたのかもしれない。視界を赤に染めて振り返ると。


「……あなたは、」


その声はどちらが発したものかも分からない程にお互い驚き、目を見開く。私の視線の先にはあの頃よりも痩せ細った彼の妻、私を受け入れてくれた彼女が銃を構えていた。



To be continued...

今日の一日の過ごし方。

「あなたの応手を拝見致しましょう」



今日はお暇だったので朝一で髪の毛切りに行って…かなりバッサリすっぱりやってからマック行って家でアイダホ食べながら昨日のライアーを見た。

あああ秋山さんマジかっけぇ!!マジ惚れる!!てかヨコヤ!Xにハメられて退場した秋山の負債を肩代わりって。おま、改心したのね。ヨコヤ→秋山×直←ヨコヤを妄想して萌える!!ヨコヤは秋山も直ちゃんも好いてると良いよ!!
そして直ちゃんと秋山さんはもう付き合っちゃえばいい。


それから宅コスを!!初ヱリカ!うみねこ伝統芸(笑)とも言える下品な笑い方難しいね。でも楽しい!!

添付のは、何気にチェスこだわった!!や、チェスの本を参考にしてるんだけどその中でもピン(釘付け)がEP6のロジックエラー直前の状態に近いかな、と。

(ピン=価値ある駒を守る配置にある駒を釘付けにする事。ピンされた駒は逃げると守っている駒を取られる為陣形を崩される)


添付の盤面は黒が優勢に見せかけて黒のナイトとビショップとルークが白のルーク、ビショップ、クイーンにピンされてます。

戦人が自らの作り出した密室に閉じ込められ、他の部屋の人間もヱリカの作り出した密室によって動けず戦人を助けに行けない。まさにこの状態がチェスで表現出来たな、と。寧ろ同じ本を参考にしたんじゃないかってぐらい見事な合致ぶり!!
だって本通りに駒置いただけだし、奥のポーン以外は。
この状態を打破するには奥のポーン(雛ベアト)がプロモーション(覚醒)してクイーン(黄金の魔女)になる事なのかな。そしたらまずはルークをとって…と盤面からキング以外を排除して追い込みバトラとベアトでヱリカをダブルチェック、チェックメイトかな、と。

本当はサクリファイスする最初のクイーンも何処かに置きたかったんだけど、勉強不足…;最初のクイーンであるキャラをサクリファイスする事でキング(戦人)が助かるのに!!

ああぁ、そこだけ残念;

もっとチェス勉強しよう!




あ、それと飛鳥から教えて貰ったんですが、公式(ちゃんと天野先生の絵でジャンプネタバレじゃないですよ)で骸が上だけなんだけど黒の学ラン着た!!
塗り方的に霧戦ジャケじゃないしな。雲雀とお揃いー!!しかも珍しく前列で隣って!!超萌える!!

ぎゅ。

フレンド様のボイスに添付されてた梅の花の写メに、凄く和みました。
それまで三半規管やられて常に揺れてる感じで凄く気持ち悪かったのに、午後の仕事頑張ろうって元気貰えたし。


そんな感じで私も誰かが少しでも和めたらな、と思ってデータフォルダ探したら4年前に貰ったデータを見つけたので添付。前の携帯に入ってたデータだから今見ると画質荒いね。




遅くなったけど、私は無事です。連絡くれた友達ありがと!特に全然連絡をとってなかった九州組のお二人から連絡貰って嬉しかった!!

関東に住む友人達、仙台に住むリア友や同じ仙台在住で四月に一緒に合わせする予定だった方も無事で本当に良かった。

くろ、つらい時とか弱った時は頼っていいんだからね。








今はなんて言葉を掛けたら良いのか分からないけれど、これ以上一次や二次災害による被害が増えない事をお祈り申し上げます。

Blood of restriction and oath 散華(七血SS)

胸から血を流し続ける彼。銀の弾丸は心臓こそ外れていたものの、それでも確実に彼から血を奪っていった。現に立っているだけでごぽり、と嫌な音を立てて溢れる赤。
銃口を向けられる事よりも狙われた自分の命よりも、彼の事だけが心配だった。

「動かないで下さい…傷に障ります」
「…アーウィン、どうして殺したんだ」

身体は重度なほどに傷つき命の危機に曝されても凛と真っ直ぐに私を見つめる彼に眩さと、


――疎ましさを感じた。


「どうして貴方は自分を殺そうとした者すら庇おうとするんですか?貴方を守る為に連中を殺した私をどうして非難するんですか!?私が…っ」


―――ヒトとは異なるイキモノ、冥使だから。


続きを口にする事は出来なかった。もしも彼から拒絶の言葉をその口から紡がれたら、その先は考えたくもない。

紅い眼で睨み付けていればそっと銀の銃は下ろされた。草や落ちた枝を踏む音、徐々に近付く血の匂い。もっと近付いてほしいと思った、その馨しい血を飲む為に。近付かないで欲しいとも思った、彼を殺さない為に。


「…確かに、偽善者なのかもな。俺を守ってくれたお前を冥使という理由殺そうとしてるんだから」
「………」
「僕は、出来ればヒトと冥使は共存して欲しかった…。ごめんな、アーウィン。僕の偽善のせいでお前を振り回して…」

私の頬に手を添えて悲しそうに笑う彼は、とても偽善などには見えなかった。冥使だが、私もいつかフレデリックがその理想が叶うところを見たかった。実際に彼は下級冥使は祓うしか方法がないが、自我のある上級冥使にはヒトを堕とさないように説得してると以前屋敷の中で聞いた事がある。もしその理想が叶うなら、私は再びフレデリックの住むあの屋敷へ帰れて今まで通り彼と彼女と子供と人間のように生活できたのだろうか?


「フレデ」
「…っ!!」
「!」


手にしていた銃を落とし大量に吐かれた血は私の服を紅に染める。その身体は立つ事すらままならず崩れ落ちるのを両腕で抱き止める。…が、足に力が入らないのか腕からもこぼれ落ちそうになる身体。

浅く繰り返す呼吸も、青ざめていく顔も、私より遥かに高い筈の体温が徐々に下がっていく事も。
全てがある事象を示すのがどうしようもなく悲しくて、彼の身体を抱き締めながら座り込んだ。立っているよりかは幾分か楽だろう。


どうして私は無力なんだ!彼の力になる事も出来ず、ただ最後の瞬間を見るしか出来ない。もし私が央魔だったら、その強力な奇跡の力で彼を救えたんだろうか。昔、彼を死から救い出した央魔のように。冥使の力なんて…冥使の……。

「…バカな事、考えるなよ…」
「っ、フレディ…」
「僕、は…堕ちるわけには、いかない…」
「でも!」
「……人間のまま、死なせてほしい。自我を無くして血を求めて彷徨う姿なんてお前に見せたくないんだ」

だから冥使の血は飲まない、と彼は拒み弱々しく頭を左右振り私の考えを読んだように否定されてしまった。だからって諦める訳にはいかない。彼がいない未来に何の意味があるだろうか。

「でも私は!貴方に生きていて欲しいんです…貴方がいなきゃ、私は……」
「アーウィン、僕は、お前の太陽だろう?これから暗い世界で生きるお前の道を照らしていたいんだ…」


静かに、諭すような声。木々のざわめきも風の音も、小鳥達の囀りも全てが消えた錯覚さえ感じる程に彼の声しか聞こえなかった。

私の太陽。幼い私を助けて共に暮らし、冥使へと覚醒した今でも「村」の掟に反して殺さずに受け入れてくれる、私の唯一無二でかけがえのないヒト。
そんな太陽が自我を忘れてただ血を食す為に人間を襲う姿を想像して。愚かな考えを浮かべてしまった自分に吐き気がした。彼を冥使に堕とせば狩られない限り一生彼といられるだろう。その代わりにあの笑顔も優しさも全て失われて、フレデリックの中から私という存在は消えてしまうのだ。私を認識してくれないのならそれはいないのと同じだから。
たとえ傍にいたとしても。

「……逝かないで下さい。私を置いて、逝かないで。貴方のいない未来なんて…」
「……ごめんな、アーウィン」

弱々しく伸ばされた手で頭を撫でられる。小さい頃からされていた心地良い掌の温もりも、感触も。
今は目頭を熱くさせる要因にしかならなかった。彼を失う事が悲しくて辛くて寂しくて。抱き締める手に流れる彼の血が止まらなくて――


―――血?



「アーウィン」

名前を呼ばれた時に思わずビクッと肩を震わせた。悲しい筈なのに、苦しい筈なのに、これから彼を失うのが辛い筈なのに!

それなのに、そんな大事な人間らしい感情を凌駕する程に沸き上がる負の食欲。冥使になった時から常に加減して満たされなかった食欲は止まる事を知らない。
伸ばしそうになる舌を懸命に抑え、彼から顔を逸らした。少しでも衝動を抑える為に。



「…食べても、構わない」

「……え?」



幻聴かと思い、彼に視線を向けると青白い顔色で緩慢に笑みを作っていた。死の間際にあっても、なんて魅力的で美味しそうな…大切なヒト。
貫いて貪りたい気持ちと、少しでも長く生かして共にいたい気持ち。相反する二つの心を察したように私の頭を撫でていた手を頬へ滑らせた。

「お腹が減っただろう?最後の食事だ」

なんて甘美な誘惑。思わず喉を上下させて口腔内に溢れる唾液を飲み下す。それでも沸き上がる食欲は止まる事を知らない。
無理矢理理性で抑えつける食欲を嘲笑うように無意識のうちに思わず舌舐めずりをしてしまう。

理性が勝ったところで傷の治療すら出来ず、ただ静かに死ぬのを見守るだけしか出来ない。それに人間性のある劣位性質は冥使になった時に…その前からなくなっていたのだ。そしたら結果は明らかで。

それでも食す事を躊躇う私に彼は小さく笑った。普段からは考えられない程とても弱々しい笑みで。


「…アーウィン、痛いんだ」


―だから、殺してくれ。

私の躊躇いも戸惑いも、全てを断ち切る言葉。もう、抗えなかった。

ただ、食欲の為ではなくせめて安らかな死を与える為に冥使の証である長い舌を、伸ばした。

「…すぐ、終わりますよ」

にこりと笑って頷く彼。首に腕を回されると、呼吸の為に薄く開いた唇に舌をねじ込む。舌の表面からも感じれる程に馨しく魅力的な血。瞼を開き見下ろせば、静かに瞼を閉ざして死を待つ彼は穏やかな表情をしていて。泣きたくなる。複雑な表情で眺めていれば彼が片目を上げて早く、と促すように弱々しい腕に僅かに力が込められる。


私は静かに瞼を下ろして、一つ深呼吸すると口腔内で彷徨う舌を白いノドへと深く、深く、突き刺した。痛みを与えないように一気に血を啜る。

瞬間に彼と過ごした日々が脳内に流れる。両親を失ったあの日の惨劇も、その後の温かく幸せな日々も。

先程までは美味しかった血がほろ苦く感じたのは、私の頬に伝う熱い滴の所為かもしれない。

腕の中で死を享受する彼は、口を塞がれて喋る事なんて出来ない筈なのに。聞こえた気が、した。



「―たとえ冥使でも。お前は僕の、最高の友人だ」



何か言葉を返そうと微かに舌を動かした刹那。
首に回された腕が静かに地面に落ちた。

瞬時に血にまみれた舌を引っ込めて彼を見下ろせば、身体全体が弛緩し顔色は青白く変色している。左胸に手を当てても鼓動は感じられず―。


「――フレッド…私にとって貴方は。唯一無二の大切な人、でしたよ」


小さく呟いた言葉は亡骸に届いたのかも分からぬまま、白い霧の中に消えた。






彼を失い、どうやって生きていけばいいか分からず、彼の死体を抱いたまま途方に暮れる私の耳に草木を踏む複数の足跡が聞こえる。

気付けばすっかり辺りは闇に覆われていた。

目を凝らさずとも分かる、森の中に灯る幾つもの火。松明を持った人間が、「村」の人間が帰らない長を捜しに来たのだ。もう二度と喋る事はないフレッドを―。
冥使は夜目が利く。遥か先にいる人間達を見れば、彼を探す群れの中にフレッドの伴侶である彼女を見つけた。心配そうな表情で彼を探す姿。

刹那。彼女が此方を見る。

距離は離れていて灯りなんて何もない森の中で彼女は確かに私を見て、こちらに近付く。迷いなど微塵もない姿。闇の中で直感的に彼が此処にいる事を感じとっているようだった。彼女は徐に腰のホルスターに触れ、その手には銀色の銃が握られていた。このまま此処に居続ければきっと自分は狩られるだろう。

「……さよなら、フレデリック」

腕の中の物言わぬ彼の額にそっと唇を落として、優しく木に背をもたれかけさせるように座らせる。静かに、安らかな表情で永久の眠りに就く彼。頬からは完全に血色を失っていたが、その幼く見える寝顔は変わっていない。
ずっとその表情を見ていたかった。ずっとその身体を抱き締めていたかったけれど、彼女と子供の事を考えれば生死も分からず行方不明になるよりかは遺体に対面させた方がいいだろう。

もう一度だけ、さよなら、と小さく紡ぎ頬を一撫ですると霧化して彼から遠ざかった。
随分と離れて木の枝の上に立つと同時に彼女の悲鳴が聞こえる。仲間の死体を、彼の遺体を見たんだろう。その声に反応するように彼女の元に駆け付ける「村」の仲間達。

静かな森に響き渡る程、泣きながら彼の名前を呼ぶ彼女の声に、私は再び目頭が熱くなった気がして、それを誤魔化す為にゆっくりと瞼を閉じた。




To be continued...
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