雪兎をつくったと満面の笑みで振り返った相手は
たしか俺より十倍生きてるんだよなあ、と確認したくなるくらい子どもっぽくて。
季節は冬だし。この街は結構雪も降る。
五センチも積もったら大雪だから、明日の電車やバスはパニックかもな、と他人事を呟く。
しかし、真夜中に雪と戯れる二人組を想像する奇特な人間なぞいないだろうから、誰も自分を気の毒とは思わないだろうと少年は自分を慰める。
家から少し離れた公園で、雪の中でうずくまり、せっせと芸術的雪兎をつくり続ける背中にまた、白い雪が降りてきた。
「ルキア、そろそろ帰っぞ」
「いや、もう少し」
「あのな」
ずかずかと足跡をつけて彼女に近づく彼に気づいて、慌てて少女は立ち上がった。
「一護」
「…鼻真っ赤だ」
ぶっと一護が吹き出し、ルキアはムッと眉をしかめる。
「き、貴様だとて…」
「そうそう俺のもつめてーですよ。早くあっつい風呂入りてーです」
ルキアはばつが悪そうにうつむくと、手元の雪の塊を一護に差し出した。
「やろう」
「俺に?」
「一護チャッピーだ」
「はあ?」
「可愛らしいチャッピーに貴様の無愛想な面構えは似合わんが、そこは私の腕で大層可愛らしくできたぞ」
一護の手の上に載せられたそれは兎というより亀に近く。しかも妙に一部がガタガタだった。
「ここなんぞ苦労したぞ、貴様なんでそんなツンツン頭なのだ」
「これ髪かよ…」
手作りは嬉しいが、何となく悲しい気持ちで自分もどきな雪兎を目線に持ち上げる。
なるほど。目付きが悪い。ここだけは何故か似ていないでもなかった。
「どうだ」
嬉しかろうと得意げな少女を見下ろして、軽く肩をすくめる。
「ありがとうございます」
「気持ちがこもっておらぬ」
「こもってるさ」
「ない!」
「うーん。じゃお礼な」
雪兎をルキアの頬に軽く触れさせる。
「…なんだ今のは」
「『俺』からのお礼、不満?」
ニヤニヤと一護はルキアを覗きこむ。うっすらと赤みを帯びた顔を少女は、わざと背けた。
「……チャッピー一護は素直で可愛いな」
「さっき一護チャッピーって言ってた」
「う、うるさい!一護チャッピー!帰るぞ、こんな奴は置いていこう」
一護の手から雪兎を奪うとルキアは歩き出した。
「あ、てめ?ずるいぞ、ひとりで帰る気かよ」
「ひとりではないぞー、な一護チャッピー」
「うわ。むかつく」
「ふふふ」
「ならよ」
「うん?」
一護の頬が寒さのためではない赤みを帯びた。
「ルキアチャッピーも作れ」