眠らないカラダ(2/3 R18)

勉強会が終わって、田島は皆と一緒に帰って行った。
理由は一旦帰って着替えとかを取りにいくため、そしてもう一つ、いきなり田島だけがオレの家に残るなんて言い出したら、他の部員に不審がられるかもと思ったからだ。
そんなの考えすぎって言われるかもしれないし、自分でもそう思うけれど、それでも石橋をこれでもかと叩きまくるくらいが丁度良いのがオレたちの関係、だと思う。

皆が帰ってから、一時間ちょっと経ったころ。
自分の部屋で試験勉強の続きをしていたら、静かな家の中にインターホンの音が鳴り響いた。
……もしかして、田島?もう来たのか?オレの予想では、あと30分くらいはかかると思ってたんだけど。
勉強の手を止めて、部屋を出た。
田島かな、違うかな、ってちょっとドキドキしながらオレは玄関に向かう。
適当に靴をつっかけて、ドアノブに手をかけて。
ドアを開けるとそこにいたのはやはり、予想通りの人物だった。
「おーっす」
いつも部活で使っているエナメルバッグを肩から提げて、明るく笑う田島がいた。
「早いね」
「超ダッシュして来た!」
にぃっと笑ってそう言った田島の言葉通り、息が上がってる……ような。
「大丈夫?」
「こんぐれー余裕!」
オレの問いかけに田島はさらりとそう答えると、オレたち以外誰もいない家の中に向かって「お邪魔しまーす!」と律儀に声を上げてから、玄関の中へ入ってきた。
「オヤ、何か言ってなかった?」
靴を脱ぐ田島の横顔にオレがそう声をかけると、田島は顔を上げてきょとん、とオレを見つめて言う。
「何かって、何が?」
「や、急に泊まることになっちゃったから、怒られなかったかなーって……」
「全然!勇人君に迷惑かけちゃダメよとは言われたけど!」
その言われようがよっぽど不本意だったんだろう、脱いだ靴を揃えながら「迷惑なんかかけねーっつーの」って呟く田島の眉間には深く皺が寄っていて、唇を尖らせたその表情がまるでいじけた子どもみたいで可愛くて、思わず笑いが零れてしまう。
それが不満だったのか、田島は更にむくれた表情になる。
「何笑ってんだよー?」
「何でもない。それよりさ、メシにしよう?姉ちゃんがカレーいっぱい作り置きしてってくれたから、一緒に食べよ?」
零れる笑みは堪えきれないままにオレがそう言ったら、田島の表情があっという間に変わってぱっと輝くような笑顔になる。
「マジで!?やった!オレ腹ペコなんだよねー!」
そう言って意気揚々と家の中に入っていく田島の後姿を目で追いながら、オレはとうとう声を上げて笑った。


一緒にカレーを食べて、一緒に風呂入りたいと騒ぐ田島をどうにか宥めすかして風呂へ追いやって、オレは再び台所に立った。
今のうちに洗い物を済ませておけば、風呂のあと田島とゆっくり過ごす時間を確保できる。
他人の目を気にせず二人きりになれる時間は貴重で、だからこそ大切にしたい。
それこそ、一分、一秒でも。

バタン、と風呂のドアが開く音がして、続いてぺたぺたという足音が聞こえてきた。
え?田島もう出たの?早くない?なんて考えている間に、台所のドアが開いて。
「お先ー」
振り返ったオレの目に飛び込んできたのは、下はジャージ、上は裸という出で立ちの田島だった。
「ちょ……服着なよ!」
「アチーんだもん」
「……あ、そう」
グランドでだって、暑いからってすぐパンツを脱ごうとする田島だ。
オレたちしかいない家の中でジャージを穿いてるってのは、まぁ田島にしちゃ偉い……かもしれない。
ちょっと服を着てないくらいで風邪を引くような季節でもないし、そんなに目くじらを立てることでもないんだけど……問題はそれよりも。
オレだって人のことは言えないけれど、田島はお世辞にも背が高いとは言えないし、体格だっていい方じゃない。
だけど筋肉のついた引き締まった身体は同性のオレから見てもキレイで、何だか目を逸らせなくてドキドキしてしまう。
今更照れるような関係じゃないっていうのに。
オレは無理やり田島から顔を背け、視線を流しの中に転がっている茶碗やお皿に向けた。
早く洗い物を終わらせて、風呂に入って、それから……それから?
恋人同士、夜、二人きり。「それから」何をするかなんて、それこそ今更だ。
改めて意識してしまって、顔がかぁっと熱くなる。
ダメだダメだ、考えちゃダメだ。
早くなる鼓動を何とか落ち着かせようと、深呼吸をしたその時。
後ろからオレの腰にするりと巻きついてきた、二本の腕。
「ちょ……っ!」
その腕の持ち主が誰かなんてそんなのわかり切っていて、抗議するような声を上げて振り返ろうとしたオレの耳元で。
「栄口、」
普段の田島の声とは違う、ちょっと低い声で名前を呼ばれて、心臓が破裂するかと思った。
「オレ、もう我慢できねーかも」
続けられた言葉と同時に、二本の腕のうちの一本が下に動き、ズボンの上からオレの中心をゆっくりと撫でる。
「あ…ッ」
予想外の刺激にオレは思わず声を上げ、身体を震わせる。
もう一本の腕がTシャツの下に潜り込んできて、指先が迷いなく胸の突起を強く摘んだ。
くにくにと捏ね回されるとじんじん痺れるような快感に襲われて、オレはシンクの縁に両手をついて、崩れ落ちそうな身体を何とか支える。
「田島、まだ洗い物、とちゅう……っ」
荒くなり始めた息の下、どうにかこうにか抗議の声を上げるけれど、それは田島に一蹴されてしまう。
「我慢できねーもん」
「でも……ぁあっ!」
更に言い募ろうとしたオレを黙らせるかのように、下半身を撫でていた手がその場所を服の上からぎゅっと握り、痛いの半分気持ち良いの半分でオレは声を上げ身を捩る。
そのままその手が、オレの敏感な場所をやわやわと揉みしだき、次第にそこがズボンの下で熱を孕み始める。
「何、カンジてんじゃん」
からかうように田島はそう言って、オレの耳朶に軽く歯を立てる。
「や、だぁ……っ」
オレは泣きそうな声で訴えるけれど、そんなのお構いナシの田島は今噛み付いたところに舌を這わせ、その形をなぞるようにつうっと辿る。
生暖かくぬるりとした感触に、背筋がぞくりと震えた。
「栄口……」
耳元で囁かれる、熱い吐息混じりの田島の声。
吐息と一緒に舌まで耳の中に入り込んできて、ぐちゅぐちゅという水音で頭の中がいっぱいになる。
その音が、オレの理性を壊していく。
「あ、ぁあッ、ああ……っ」
狂ったように声を上げるオレの口元に、いつのまにかTシャツの中から引き抜かれていた田島の手が差し出され、その指が三本、オレの口の中に押し込まれる。
「むぅ、んんっ」
オレは反射的にその指に吸い付き、オレの耳を舐める田島に負けじと舌を絡めた。
指の一本一本に舌を這わせ、その付け根まで舌を伸ばしてねっとりと舐め上げると、耳元の田島が低く呻いて熱い息を吐き出すのがわかった。
程なく田島の手首から、オレの唾液がたらたらと零れ落ちてステンレスの上に水溜りを作る。
反対の手は相変わらずオレの中心に触れ続けていて、すっかり育ったその熱がズボンの生地を押し上げていて。
窮屈さともどかしさとで思わずゆらゆらと腰を振ると、全てを見透かしたように耳元で「欲しいの?」と田島に囁かれ、オレは恥ずかしさもなにもかも忘れてこくこくと首を縦に振った。
すると田島の手が口から抜き出され、二つの手がオレのジーパンのベルトにかかった。
かちゃかちゃと金属音を立てながらベルトが外され、ジーパンの前が寛げられて、下着と一緒に膝元までずるりと下ろされる。

台所でこんな痴態を晒すなんてという恥ずかしさと、早くキモチよくしてほしいという欲望で、頭のなかはぐちゃぐちゃで。
オレはステンレスのシンクの縁をぎゅうっと握った。



次へ


前へ





textへ

TOPへ



-エムブロ-