祖父の家は、自分の住む街から少し離れた緑の多い場所にある。
地区の中心部には、10uくらいの四角いコンクリート製の貯水槽があった。
はっきりとは分からないが、たぶん火事の際にそこから水を汲み出すための貯水槽だったんじゃないかと思う。
小学生だったある夏、祖父に連れられ、この貯水槽の水抜きという行事に参加した。
地元の人たちが、子どものために鯉やウナギを放し、溜め池の水を少なくして魚のつかみ取りを企画してくれたのだ。
底がヌルヌルする泥臭い水に入ったものの、自分はまったくダメだった。
魚の俊敏さに追いつけず、必死で追いかけまわしても魚に触れることすらできない。
さすがに地元の小学生は慣れていて、ひろげたTシャツの裾を網がわりにして次々に大物をゲットしていく。
それぞれのバケツでは巨大な鯉が喘いでいるというのに、自分のバケツだけはいつまでたってもカラのままだった。
仕方なく、水面近くにゆらゆら浮かび上がってくる小さな黒い生き物を手でつかんだ。
水は濁っていて不透明だったが、その生き物の腹は真っ赤で、体をひるがえす度にチラチラと揺れる赤が目につく。
恐ろしく愚鈍なヤツで、子どもの自分にも簡単に捕まえることができた。
自分のバケツは、その黒い小さな生き物でいっぱいになった。
大量に捕れたので、得意気になってなかの1匹を手でつかみ祖父に見せた。
「ぜんぶアカハラじゃねえか」
祖父は呆れ笑いを浮かべて言った。
「それな、ナマで食ったらダメだぞ。毒にあたって死ぬからな」
じゃあ焼けば食えるのかって話になるが……
たしか漢方薬店の看板にイモリの黒焼きというのを見たことがあるので、調理法によっては食べられるのかも……
が、アカハラ、つまりイモリだが、フグと同じ猛毒のテトロドトキシンをもっている。
賢明な方は、食べないほうがいいと思います。
さて、散策の途中でおもしろい物をみつけた。
切り倒された樹木の切り株に穴があき、水が溜まっている。
中を覗いてみると……
陸生の巻貝がびっしり群がってた。
さっそく調べてみたら、アズキガイという腹足類の仲間らしい。
腹足類というのは、巻貝の中で鰓呼吸から肺呼吸に進化を遂げ陸にあがったカタツムリやナメクジたちの仲間です。
でね、このアズキガイ
生息地である森林の減少が進み、レッドデータブック(準絶滅危惧種)にあげられるほど個体数が減ってるらしい。
こんなにいっぱい見れるなんて、ちょっとラッキーだよね。