「鳥を飼いたいと思っているんだが。」


 いつものように単身で突然現れ、いつものように覇気で船員を気絶させ、いつものようにおれを勧誘しに来た赤い髪を持つ男は、無視を続けるおれの背に寄りかかり些か突拍子もないことを言いだした。


「……鳥ならもう飼ってるだろい。七武海の、」

「ん?鷹の目のことか?…あいつは、別格だよ。」


 そう言って体を起しておれの顔を覗き込んで来た男は、酷く幸せそうな笑みを満面で零した。おれを口説く時、おれと一緒にいる時、おれを抱く時。こいつのこんな顔など、一度も見たことはなかった。


「なにが別なんだよい。独占欲の強いてめえのことだ、飼うも同然に手懐けてんだろい?」

「いいや?、あいつは縛られんの嫌いだからなぁ。おれは、いつだってあいつがおれの元に帰って来られるように、温かい寝床と食事を用意して辛抱強く待つだけだ。放ち鳥、っていうのか?」

「…ハ。同じ鳥でも、おれとは随分と扱いが違うじゃねーか。よほど惚れ込んでるんだねい。」

「ああ、惚れてるよ。誰よりも。何よりも。だから、あいつが嫌がることはしたくねえ。」




「もし、あいつに捨てられたら。おれは生きていけない。」




 真剣に紡がれたその言葉とその真摯な目に、文字通り心を射抜かれる。心が痛むのは、この男が鷹の目を愛しているように、おれも捨てられたら生きていけない程にこの男を愛しているからだ。


「…抱かせろよ、マルコ。おれのものになれ。」

「ッ、だから!てめーには鷹の目がいるだろい!」

「言っただろ。おれは鷹の目が大切なんだ。束縛できない。強引に抱けない。傷つけたくない。だから、おれが一番飼いたいのは、…いや、欲しいのは、……マルコ、おまえだよ。」

「てめ…!ふざけんなよい!誰が…っ!」


 言いかけた文句は、口内へ入り込んできた熱い舌に全て掬い取られてしまう。ああ、なんて不毛な関係なのだろう。おれは二番手なんて嫌だというのに、結局、この身勝手な男に羽根をもがせてしまった。







(ずるいのは、この男か。鷹の目か。はたまた、間男のおれなのか。)






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