ログイン |
「タミヤ君、もう帰ろうよ。」 棄てられていたガタガタの自転車。荷台に乗せたカネダは、夕陽を浴びて真っ赤に見えた。 「いやだ!帰らない、ッ!」 汚く疲弊し切った街から逃げ出したくて。大好きな君を拐って、勢いに任せて駆け出した。 「暗くなったら危ないよ。」 ぐんぐんぐんぐん。何kmぐらい走っただろうか。辺りは知らない景色、陽も落ちて来ていた。 「…明日、卒業式なのに、」 卒業式だから、とは言えなかった。明日、お前が俺から離れてしまうかも知れない、から。 「僕たちはまだ子供なんだよ。大人……家族や先生たちに迷惑をかけちゃ、駄目だよ。」 カネダの言葉に、涙で視界がぼやけた。俺たちはなんてちっぽけで、なんて無力なんだろう。 拐って来たところで金も無ければ仕事だって出来ない。保護されるか餓死するのが関の山だ。 「…ごめん。ごめん、カネダ。」 瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。無理も無い。何時間も走って、もう脚が棒のようだった。 カネダに怪我をさせては為らないと、残りの力を振り絞って腕を伸ばし、彼を抱き締めて庇う。 背中にコンクリートの強い衝撃。と、同時に、ガシャン!と物が壊れる不吉な音がした。 「ッ!……いってェ…。」 からから、から。きっと自転車は、もう使い物にならないだろう。車輪が虚しく空を切っている。 「タ、タミヤ君!大丈夫?」 本当は背骨の芯が痛んだけれど、大丈夫だと笑ってやる。カネダの哀しがる顔は見たくない。 「…あーあ。恰好悪ぃな、俺。」 止まれと命令しても涙がとめどなく溢れてくる。腕で顔を隠してみたけれどきっとバレバレだ。 「…タミヤ君は恰好良いよ。」 手中のカネダの、優しい声と体温が心地好かった。このまま、時間が止まってしまえば良いのに。 「タミヤ君、お願いがあるんだ。」 「大人になった時、タミヤ君がまだ僕を好きなら、またあの街から僕を連れ出して。」 カネダは泣きそうで、でも今まで見た事がないくらい綺麗な笑顔で、 大嫌いな、汚い大人にならなきゃ、何も出来ないなんて。 俺もカネダも、大声を上げて泣いた。 明日で、楽しかった小学生活が終わる。 |