「てかさー!梅ちゃんって浅見くんの友達!?」
派手に飾られた爪の女が、同じく派手に飾られた携帯を操作しながら言った。
「んー、まあ、そんなかんじ?なっ、浅見!」
「……知らねー」
「えっ、まじ?早く教えてよー!うち浅見くんと話したかったんだけど!」
ばか…と咎めるような視線を梅香に投げかけると、片手で悪いなと振りをした。
「あーのさ、麻紀、浅見は女がちょっと苦手なんだよねー」
「何それー。めっちゃ意外ー!イケメンなのにもったいない!」
「彼女とかいないんだ!?」
「私とかどうー?」
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絶対梅香のせいだ。
間違いない。
あいつが変なこと言うから、なんつーか……その、ちょっとアレな夢(しかも俺が下)なんか見ちゃったんじゃねーか。
講義室の重いドアを開くと、数人の派手な恰好をした女たちと談笑する梅香が目に入った。
「やぁだもー!梅香くんおもしろーい!」
「まじ?惚れちゃう?」
………アホくさ。
他人のふりで通り過ぎようとした俺の腕をしっかり掴んだのは、
「おはよ、浅見。シカトとかひどくね?」
やっぱり梅香だった。
「……取り込み中かと思って」
皮肉まじりに言うと、梅香はニヤリと口元をいがめた。
「はーん、ヤキモチか」
「は!?」
なんでそうなる。
はぁー、と大袈裟に溜息をついた。
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「梅香……」
「ん、怖い?大丈夫だって、優しくする」
「そ…じゃなくて、っあ……!」
梅香の熱い舌が平らな胸を舐める。ざらざらした感触が、気持ち良くて、でも、じれったい。
「どしたの?浅見」
俺の心なんか見透かしたように、ニヤリと笑って上目遣いで俺の目をじっと見つめる、真っ黒で大きな目に溶かされそうになる。
「………じゃ、…………………や」
「聞こえない」
「…………………そこ、じゃない…っ!バカ………!!」
「ここじゃないって、じゃあどこだよ?」
わかってるくせに、こいつは俺の口に言わせるのを楽しんでる。
意地が悪い。
でも、そんなところも含めて好きになった俺の負けだろうか。
「っ…た……し、た……!触って………」
梅香の口角が上がるのを確認したとともに、他とは比べものにならない快感に襲われる。
「……感じてる?」
畜生。
滅多に聞かない低い声で囁かれ、梅香の指に犯され続ける箇所は零れ落ちた蜜でぐずぐずになっていくばかりだ。
「浅見のここ、ヤバイよ……女の子みたい」
「っや、め……!!バカ、も…いい、から……!」
「焦んなって。ちゃんとしとかないと、痛いのは浅見だよ?」
「……ったく、ないから………!も、お前、…の、が、欲し……っ!!」
必死に紡ぎ出した言葉だった。
梅香の指の動きが止まり、一気に押し寄せる静寂。
「………あのさ、」
梅香が唇を俺の耳元に寄せた。
「………………ズルイね、浅見」
何が、と問う間もなく、言いようのない圧迫感が下腹部を支配した。
「ンなこと言われたら、優しく出来ねー……」
「っあ、梅…香ぁ……!痛っ……!」
「だから言ったのに。……悪いのは浅見だからな」
「いきなり、ばっ……!ンぁ…………」
痛みが徐々に引くと、次に押し寄せてきたのは、快感の波。
額から大粒の汗を零しながら腰を打ち付けてくる、腹が立つくらいに整った梅香の顔だけを薄明かりの中で見上げる。
「……浅見、その顔は反則」
いつもより低い梅香の少しかすれた声や、突き上げられるとともに零れる、自分のものとは思えない甘ったるい声にさえ耳を刺激される。
「っ、うめ…か……も、無理………!」
「俺も、……もー限界」
より速まるスピードに、何も考えられなくなる。
ただ互いの名前を呼び、高め合うだけだった。
「っ、梅香……!イく………!!」
「イっていいから……だから、俺も………」
「………………奏」
切なげな声で名前を呼ばれたあと、俺は意識を手放した。
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コンパから、俺と梅香は授業がかぶると一緒にいることが増えた。
というか、梅香が目ざとく俺を見つけて横に座るという方が正しいのか。
しかし、いずれにせよ、梅香と授業を受けていると、何故か多くの視線を感じる。
「……なあ、梅香」
「ウメでいーって。で、何?」
「お前ってモテんの?」
何が?という顔。
「や、なんかお前といるとやたら視線感じて気ぜわしいっつーか……」
「あー、それね」
先生が教室の電気を落とし、大きなモニターにパソコンの画面をでかでかと映した。
「多分、見られてんのは浅見だよ」
「……は?」
俺?と聞くと、梅香は頷いた。
「浅見って、愛想は悪いけど顔はいいからモテるんだよ」
「それならお前の方がモテるんじゃねーの?」
「俺はせいぜいいい人止まりだから。浅見みたいなクールに見えるイケメンには勝てねーよ」
「そらどーも……愛想は悪いけどな」
「あれ?お前気にしてんの?」
ニヤリ、と梅香が笑い、そっと唇を俺の耳元に寄せて言った。
「---俺なら愛想なくても受け止めてやるよ?」
「---------は?」
「なんつって、な?」
明かりが戻ると共に、梅香は姿勢を戻し、終業後に提出する小レポートに着手していた。
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