俺様の様な白いハチドリはアルビノ、人なら白子とかいい、物凄く珍しいらしい。
砂名はコメディカルという医術の手伝いをする仕事なので少し医術知識に詳しいそうだ。
それに最近ではスマホという機械で何でも調べられるとか。
俺様が飲みたいと言った水蜜桃100%のジュースもそれを使って探し出したそうだ。
俺様がチョコレートシェイクを飲んでもいいかも調べて駄目と言いやがった。
別に蜂鳥の体でも基本人が食べる物は何でも食べれる、鳥扱いするなと言うておるのに過保護なのだ。
 それはそうと最近砂名の帰りが毎日物凄く遅い。
俺様なら女をそうも働かせるのはどうかと思うが、砂名が言うには男女平等というやつらしい。
今時の女は昔より強いと言うが、赤子を身籠る体はやっぱり大事にした方がいいと思う。
遥か昔、俺様が呪いを解いてやった川蝉は水干姿の若い娘だったが、一見白拍子(平安後期男装で舞う女性、貴族相手の高級娼婦)の様で本人はそうではなく曲舞々(クセマイマイ。踊りの流派)の踊り手だと言っていた。
芸事に疎い箒木には違いが分からなかったが仕事に誇りを持っているのは好感が持てた。
だから娘が呪いを解いた者に呪いがうつる事を黙っていても憎む事は出来なかった。
そして箒木自身もこの長い年月呪いの事を打ち明けては何度も断られる内、あの娘と同じ事を砂名にしてしまったのである。
 だから俺様はもう砂名を裏切らないと決めている。

「ただいまー」
 やっと帰ってきた。
今日も疲れた顔だ。
「お帰り、ご苦労だった」
顔の前でホバリングしながらねぎらってやる。
 それから口先でほつれ毛も直してやった。
「ハハキギ、ちょっと話があるの」
 だが思い詰めた様に彼女は言ってリビングのソファーにどさっと腰を下ろす。
 俺様はテーブルの止まり木代わりの木製の皿立てにとまると、砂名の表情から何かを読み取れないか見守った。
「この前健康診断の後再検査して結果を聞いてきたんだけどね」
「結論から言うと、わたし、もうすぐ死ぬの」
「……何となく夢見てたんだよね。きっとわたし結婚もせずおばあちゃんになっちゃって、その時はハハキギの呪いを解いて蛾になって飛んで暮らしてもいいかなって」
「だけど、おばあちゃんにならずに死ぬんだと思ったらハハキギの呪いを解いてあげたいと思ったの」
(……!?)
 砂名が何かとんでもない事を話しているのに内容が頭に入ってこない。
砂名が死ぬ、と言っているのは分かったが。
「ま、あんたの呪いを解いて蛾になっても長生き出来ないかもしれないけど、蛾の頭で難しく考えないで済むのはいい気がするわね」
 そう振っ切った様に言うのが怖かった。
「この家はハハキギが使えばいい。半年分はお家賃払い込んでるし。その後も困らないよう考えるし心配しなくていいよ」
 箒木がいつもゾッとさせられるのが何かを覚悟し肝のすわってしまった女である。
しばしば彼女らは既に彼岸に渡っている。
「砂名!」
「だからね、今まで本当に有り難う! わたしね、ハハキギに逢えて良かったと思ってるんだ」
「いや、だから砂名!」
「ただ、色々片付けもあるし明日の朝まで待ってね」
「いや、だからそんな事じゃなくて!」
「ん?」
 本当に砂名は箒木が何を焦るのか分からぬ様だった。
俺様は死に至る病に焦ったのではない。
いや、それも焦るが、でも独りで覚悟してしまった女の頑なさを砂名に見てそれに焦ったのだ。
 こうなった女は勝手に突っ走る。
目の前の箒木さえまるで見えぬかの様に。
そうして契約者だ何だと縛っても勝手に捨てられる儚いものだと何度思い知らされた事だろう。
 俺様は砂名が寝室に去った後リビングの皿立てで一晩鳥目で何も見えない闇の中まんじりともせず朝を迎えた。
 向こうも眠れなかった様だが、俺様に「おはよう」と声をかけ、外に飛び立つ為なのか窓を開け、おもむろに…
「そしたら始めるね。━━ 先に前回保留というか蛾になって言えなかったその願いを使うよ! 『人に戻って1人でもハハキギが困らず暮らせますように!』」
(そうだ、保留した願いで体を治せていた! 気づいていれば! ……なのに何という事を願うのだ、お前は! いつも俺様の心配ばかりして)
 箒木は泣きそうだった。
「さて『あなたの、』いや、正しい呪文じゃなくなるけど『ハハキギ、あなたの想いに感謝します』」
フォワーン!
(……!?)
「ハハキギ、良かった! あれ、わたし蛾になってない?」

 呪いが解けたのだった。
「あなた」という詠唱は相手を特定出来ず、きっと目の前のその呪われた者の「想い」ではなかったのではないか?
だが砂名が俺様の名を呼び、俺様が砂名の幸せを願う事で正しく呪いが解けたのだ!
 すぐに俺様は砂名の呪いを解いた時保留した願いで砂名の病の消滅を願った。
 とうとう俺様は人に戻り、砂名は病ではなくなった。
 二人で幸せになる!
絶対の絶対だ!
          了