クマシエル
『小説』赤ちゃん選り抜き
2016/04/16 14:20
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愛する透さんの赤ちゃんが欲しかったわたくし、竜神ミトは、彼が側に居なくても、結婚出来なくても、わたくしのお腹を痛めなくても、透さんの赤ちゃんを手に入れる完璧な方法を考えついた訳でした。わたくし、透さんの色んな体細胞を持っていたのですの。それを利用出来るのじゃないかしらって。
早速クローンの研究機関から有能な研究者を透さんの赤ちゃんの為に引き抜いてまいりましたわ。お金の苦労を取り除いて差し上げて研究者に来てもらったのですわね。そして半年の期限を差し上げたのだけど、その半年めがもう明日なのですわ。待ち遠しかったけど、とうとうその日がやって来ましたのね。わたくし、TBP(透のベイビープロジェクト)用に提供した施設へ急ぎ車を向かわせたのですわ。
「簡単に説明すると体細胞の部分ごとに受精卵の核に入れ換える候補を2つずつ作成した中から選抜しました」研究員の代表から早速説明を受けたんだけど、わたくしには何を言ってるのか分からなくて、とにかく寸分たがわぬ透さんになるよう作ってくれと再度頼んでおいたのだけど、研究員とのやり取りは分かりにくくて心配になりましてよ。全く、分かるように説明するって事が出来ない人達でね! ま、依頼通りに作ってくれればいいのですけれど。わたくしはただ完璧な透さんをと依頼しただけですのに。どうして復刻版を作らせているだけですのに、ややこしくしたがるのですかしら?
で、更に半月後、とうとう!
「透ワンです!」と渡された赤ん坊は凄く可愛くて、この子がやがて透さんになるのだわと思うと感無量でしてよ!
それから3年、わたくし本当に可愛がって育てました。その後は、わたくしの研究所に戻して、1年半ぐらいかけて本物の透さんと同じ大きさでちょっと若いぐらいまで急速に育てさせて、わたくし専用の透さんにしますのよ。
そして、今日でようやく1年半ですわ。迎えに行って差し上げたいと思いますの。ただこのところわたくしいささか忙しいんですの。だって今流石に諦めようかと思っていた件がひょっこり上手くいきかけているのですから。どうしたものかと思って、仕方がないので今回はメイドに迎えを頼みましたの。
「一体…、どういう事ですの!?」
何という事でしょう! これはわたくしにはもう、どう言っていいか分かりません! 何て事なの、もう!
メイドの言うには、メイドが施設から引き取って出たところで、
「迎えを有り難うとミトさんに伝えてくれ。行くとこがあるからそれじゃ」とそこで別れたと言うのですわ。そんな事ってありですの? わたくしの、わたくしの透さんでしてよ! そんな事って! メイドは事情を知らなかったのですけども、それは当然の事で、メイドには本物の透さんと思わせておけば良いのでした。だってわたくしだけの透さんなのですから、何故そんな事を言いますの? 本物の透さんではないですのに、そんな事を言うはずが…
ええ、わたくしはすぐさま研究所に苦情を入れました。すると研究員は言うのです。「大丈夫です。まだ予備があります」と。
わたくし本当に忙しかったんですの。それにもうすっかり何がなんだか分からなくなってしまって多少投げやりになっていたのかもしれませんわね。
「それでいい」とお任せしましたの。
それでもわたくしは構わないとその時は思う理由がありましたの。だってもうすぐ透さん、クローンなんかじゃなくてよ! 本物の透さんを手に入れられそうなところまでこぎつけていたのですもの。完璧なクローンじゃなくて本物ならそっちがやはり完璧なのは分かりきっているでしょう?
だからクローンはもうどうでもいい気にもなっていたのですわ。ええ、わたくしの未来は輝いていましたのよ。
さてその1年後、とうとう透さんのお父様の会社を吸収しましたんですの。
これで本物の透さんをわたくしのものに出来ましてよ! これから直接プロポーズに参りますの。

「前に言ったはずだね、ミトさんとは結婚出来ないと」
なのに、どうしてこんなにえらそうに言うんですの? 父親も透さんもわたくしの気持ち1つで路頭に迷う状況だと理解していまして?
「透は俺が守るから」
その時透さんが言いました。何を言っているのでしょう?
そこへ!
「ワン! 待って。僕から話すから」
え? え? えっ? 透さんですわ!? 出てきたのは透さんでしたわ!
「僕は家族が出来ました。ミトさん、彼らを大事に守るから。ミトさんを恨んだりしないから、どうか僕を、僕らを許して下さい! お願いします」
そうでした。こういう優しい方でしたわ。透さん!
わたくしは透さんを見つめました。横に立つ少し若い透さんも見えましたわ。そして透さんの後ろに小学生ぐらいの男の子、この顔は勿論!
「途中で残りのクローンを勝手に引き取ってきたのですわね」
わたくしはため息をついてもう一度見つめましたの。そして分かったのですわ。彼らは… 彼らは、確かに家族でした。わたくしは負けたのでしょうか?
(追記に続く)
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