クマシエル
戌己、或いは名も無き鬼語り
2016/06/24 23:58
コメント14

 其の壱

 忍(しのび)は同胞で切磋琢磨し育つものか、少なくとも戌己(いぬき)にはその記憶は無い。遡って思い出せるだけの初めから戌己は戌己だったし、それはもう生まれた時から戌己と決められた事で、その師匠である酉代(とりがえ)が戌己の名であった間と同様に、引退を目し次の酉代を名乗るまではただ戌己として決まった役目を果たせる者に育ち、戌己の役目を為すだけであった。他の忍が戌己の座を羨んだり、成り代わろうと企む事も有り得ない事だった。というのも戌己は運命(さだめ)にしか選べないものだからである。いつの世にも只1人の戌己が存在し、皆酉代になるまでは戌己だけが為す役目を果たしていく。そうして変わり無く続くそれを一子相伝と呼ぶのであり、専任の役目を持つ忍は皆そうして秘密が洩れる恐れをとにかく廃した上で独特の技を代々伝えてきたのであった。戌己は動物、特に犬を使い、また毒薬と火薬を扱う技を専門としている。専任でないような基本的な忍の技も学ぶものの、主に求められるものは専任の技での戦働きであり、下忍の子供達のように1日じゅう外で体術や忍術修得に励むよりも、物心がつくかつかぬかという内から徹底して酉代に専任の技を仕込まれた。そして空いた時間が出来るようになると、その全ての時間に普通の忍の技を修得する事を強いられたが、そうなってもまず優先するのはとにかく専任の技のより完全な修得であった。そうしてとうとう10の歳から戌己は戦場で一本立ちしたのである。
            続く
続きを読む



*新しい 古い#


TOPに戻る

-エムブロ-