俺の誕生日は前々から約束していたのに、当日になって仕事が入ったからと言ってドタキャンされた。
俺がずっと楽しみにしていたクリスマスの五ツ星ホテルのデザートバイキングだって、やっぱり非番が取れそうにないからと言われて諦めた。
結局いつもそうだ。
土方は仕事第一な人間で、俺との約束なんてそれほど大切に思ってない。
期待すればする程、その後にくる落胆が大きくなる事を、ここ数ヶ月で何度も思い知らされてきたんだ。
「あれー?旦那じゃねぇですかィ」
「…どーも」
「お一人ですかィ?」
「いや、神楽と新八は参拝に行ってる」
人込みは好きではないけれど、家でじっとしているよりはマシだと思い、万事屋三人で訪れた初詣。
参拝客の長蛇の列を見て吐き気がした俺は、一人列を離れ、甘酒を嗜もうと別の場所へと移動した。
そして、偶然そこにいた沖田くんに見つかってしまったのだ。
「…今日は隊服じゃねぇんだな」
「年末年始ぐれぇ休ませて下さいよ」
「別に悪いとは言ってねぇだろ」
沖田くんが休みって事はもしかしてあいつも休みだったのだろうか。それなら誘ってみれば良かったかなぁ…、なんて。
「ま、仕事馬鹿なうちの上司だけは部屋から全然出てきませんけどねィ」
「……ふーん」
やっぱり前言撤回。
どうせ誘っても、仕事を理由にまた断られていただろう。
「そういや先週も部屋に閉じこもったきりだったなァ…てっきり誰かさんと出掛けるんだと思ってたのに」
「…」
「ねぇ旦那?」
「はは」
ニヤリとこちらに笑いかける沖田くんに、ほんとこのガキはどこまで知っていやがるのかと、苦笑いするしかなかった。
「それじゃあ旦那、俺はもう帰って寝まさァ」
「ん、あ、おぉ」
「旦那も今日は早く帰った方がいいですぜ」
「なんだそれ」
そんな意味深な言葉を残したまま、沖田くんはまた不気味な笑顔を浮かべて帰って行った。
「…言われなくても帰るっての」
どうせ予定もねぇし、とその後ろ姿を見送りながら俺は小さく呟いた。
それから数分後、参拝を終えてやってきた神楽と新八が合流し、眠気眼の神楽を俺がおぶって万事屋へと帰ることにした。
「銀さん、本当にこのまま帰るんですか?」
「あー?なんで?まだ参拝し足りないとか?」
「いえ、そうじゃなくて。…何か予定とかあったんじゃないかなって」
鈍感な神楽と違って、新八は俺と土方の関係には随分と前から気付いているらしい。
「予定なんかねぇよ」
「でも…」
「おしるこ食ってもう寝んだよ今日は」
「そう…ですか、じゃあとびきり美味しいやつ作りますね」
「おー、頼むわ」
けれど、残念ながら俺達は新八が思い描く恋人のイメージとは掛け離れたところにいて、むしろいつ終わりが来てもおかしくないような、そんな関係なのだ。
「あ」
それから一言も発することなく俺の前を歩いていた新八は、万事屋の看板が見える位置まで来ると急に立ち止まってしまった。
「新八?」
「銀さんっ、やっぱり今日は神楽ちゃんと僕は姉上と過ごします」
「は?なんだよいきなり」
「いいですからほら、神楽ちゃんのことおろして下さい」
急に何があったのか、新八は慌てた様子で、でもどこか嬉しそうに神楽を俺の背中からおろした。
「それじゃあ銀さん、僕達帰りますね」
新八の体格で神楽をおんぶするのは相当厳しいらしく、見てるこちらが不安になるぐらい足元がフラフラした状態でさっき来た道を戻って行った。
「…なんだよいったい」
意味が分からん、大体お前が帰ったら誰がおしるこ作るんだ、などと文句を呟きながら万事屋の階段を上がる。
すると、階段を上った先にある万事屋の玄関前に誰かの気配を感じた。
まさか、だって沖田くんがさっき言ってたのに…いやでも俺が間違うわけがない。
この気配は土方だ。
俺は階段を上がる足を速めた。
そして、やっぱりそこには土方が玄関にもたれ掛かるようにして立っていた。
「遅かったな」
「…何してんですか、ひとんちの前で」
「待ってたんだよ。つーか中入れろ早く、マジ寒くて死ぬ」
たしかに土方の口は青ざめていて、その足元には何本もの煙草の吸殻が落ちている。
「何してんのお前」
「だからお前を待ってたって言ってんだろうが」
「…そうじゃなくて、何時間ぐらい前からここにいんだよ」
「さぁ?二時間ぐらいじゃねぇの?」
「にっ…!?」
それって、俺らが初詣に行った直後に来たって事じゃねぇか。
お前仕事忙しいんじゃなかったのかよ。
「もう一年も終わりかと思ったら、無性にお前の顔が見たくなってな」
「けど会えなかったんだから帰れば良かっただろ」
「まぁな…、でもそしたら次は一年の始まりに会うのもお前がいいよなとか思って」
「んだそれ…」
そんなん調子が良すぎるだろボケ。
こんな何ヶ月も俺をほっといたくせに、自分が会いたい時はそうやって…自分勝手すぎる。
「なぁ中入れてくれよ」
「嫌だね、俺ァもう寝んだから帰れ」
「……寝かせねぇよ」
「ぅわっ」
家の中に入るため、玄関にもたれ掛かる邪魔な土方をどかそうと腕を伸ばした瞬間、土方はその腕を引っ張って俺のことを抱きしめた。
「…やっと会えたってのに帰れるか」
「は、なせ」
「久しぶりのお前の匂いはやっぱり安心する」
「嗅ぐな」
「…」
「ん、ふ」
「口ん中も相変わらず甘い」
「…るせ」
言葉では嫌がってるふりをしても、俺の手はいつの間にか土方の腰に回っていて、その苦いキスの味は俺をひどく安心させた。
「土方」
「ん?」
「…もっと」
「ふ、お前が嫌ってぐらいしてやるよ」
「エロマヨ……ん、む」
そうして俺達は玄関の前で何度も何度もキスを繰り返した。
家の中になんてまだ入れてやらない。
土方の青ざめた唇が俺の熱を奪って、俺のこれまでの淋しさを溶かすような熱いキスをしてくれたら、その時は万事屋の冷たい布団の上で一緒に温め合おうか。
「…銀時」
「ん?」
「今年もよろしくな」
「…う、ん」
あー…、その声だけで腰が砕けそうだよ土方くん。
こちらこそ、今年もよろしく。
遅くなりましたが、年越し文です。あんまり設定が活かせてませんが年越し文です。
皆様、今年もホーリーナイトをよろしくお願いします!