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願い





「一郎君」





口に広がる甘い味と、呼んでくれる声が愛しい

「一郎君」

囁く様に呼ぶ潤の声に、いつも温かみを感じる

「一郎く…」
「起きんかバカヤロー!!!!」
「あぁ先生!!そ、それはダメです!!」

目を開けると、隣の潤が先生を突き飛ばしたのか、頭を抱えてうずくまった先生と分厚い辞書が床に転がっていた

「だ!!大丈夫ですか!?」

悲鳴だかうめき声だかをあげてうずくまる先生をみんなが囲んでいる
心配そうに声をかける子に「大丈夫だ」と言っているけど、どう見ても大丈夫には見えない

壁、ひび入ってるし…

しばらくして先生は起き上がり、俺達に説教を始めた
授業中寝るな、暴力反対…
毎回毎回聞き飽きた

「全く…少しは周りを見習え」

その言葉の終わりと同時にチャイムが鳴った
俺はそそくさと片付けをする
先生が何か言いかけてたけど、潤を引っ張ってかまわず逃げた

「え、一郎く…」
「橘の話長いから今逃げなきゃ終わりだよ」

先生の怒鳴り声を背中に受けながら、俺達は中庭の方へ向かった





中庭の植木が密集するさらに向こう側
校舎側からは見えない秘密基地、とでもいえばらしく感じるだろうか
そこが俺達の休憩スペースだった

「一郎君が悪いよさっきのは」

真新しい手作りの椅子が2つと同じような構造のテーブルが1つ
そこで弁当を広げてお互い昼食をとる

「橘先生の時いつも寝てるじゃん」
「でもノートはちゃんととってるし、テストもそれなりの点とってるよ?」
「何で寝ながらノートとれるのかが不思議…」
「俺友達多いから」

友達、とは思ってない
俺の気を引こうと知らない女の子が代わりにとってくれるだけ
その子を潤が知ってるかは分からないけど、俺には関係ない話だ





「安倍川草、元気?」

名前を出してみる
あいつのことなんて興味ないんだけど、この話題になると潤は生き生きとした顔をする

「うん!!昨日は何かのイベントのお菓子を作るの任されて、構想を練ってたみたいで…」

今までとは違う笑顔になる
何というか…悔しいけど「嬉しい」表情
俺との普段の会話では絶対にしない表情だ

「…だから今朝メールしといたの!!頑張ってねって!!」
「そう」

俺は普段と変わらない笑顔を向けた
はにかみながら笑う、赤らんだ潤の顔を見て、胸が痛んだ

何で、彼じゃなきゃいけないんだろう
何で、一番近くにいる俺じゃ駄目なんだろう

毎日の様に思い、毎日同じ答えが出る
その虚しさを、潤の笑顔を見る度に痛感してしまう

「うまくいくといいね」

心にもないことを言う
潤の心からの笑顔のためだけに

「うん!!」










もし神様がいるのなら
もし俺の願いを聞いてくれるなら

消してほしい

今までの記憶と
この、報われることのない想いを―――――




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愛しすぎた人


遠くを見ている君をいつも見ていた
空、いや、雲を見る君の横顔に惹かれた


「何考えてるの?」

教室の真ん中の列、後ろから2番目
そこが君の指定席

自分のクラスじゃなくなっても、夕方になるとそこに座る

「……」
「あ、俺は…」

言いかけると君は立ち上がった
そして俺を見てこう答えた

「好きな人のことだよ」

金髪の少年――虎水ギンタはそう言って教室を出て行った










愛しすぎた人











学年が上がっても、あのクラスに頻繁に行っている
もう一度繋がってくれる気がするから

でも、繋がらない

河川敷で大きなため息を一つ吐いて、空を見上げる
この空と違う、別の空の下に彼はいる

「…オッサン」

父親と同じくらいの年の人に恋をした
叶わないと分かりながら、抱いてしまった恋心
どうすればいいなんて、誰にも分からない

いつかまた会える
そう信じているが、そんなことありえない
もぅ二度と戦争が起こることがないのだから

誰かが呼んでくれないと、俺は向こうに行けないんだ

ドッグタグを握って、目を閉じる

彼の笑顔
葉巻の香り
あったかい態度

全てを思い出す

手の甲に落ちた雫に気づいて、泣いているのだと分かった
声を殺し、溢れ出す涙を拭い続けた

「…いたい」

もう一度だけでいい

「会いたいよオッサン」

ほんの一瞬でもいいから

「…会いに来てよ…」


二度と会えないという現実を目の当たりにして、一人河川敷で泣いた

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ずっとわすれない

俺の恋は間違っていたかもしれたい
ただ、俺はあいつが好きだった

それは今も、この先も変わらない





「おはよう兄者」

小金井は紅麗を起こすと川へ水を汲みに出かける
この時代に水道はないため、これが彼の仕事になっていた

毎日のように水を汲みに川の方へ向かう途中、この時代には珍しい金髪にであった

「きみ…」

声からして男だろう
だが見た目は女に近かった

「この先の村の子?」
「いや、俺はこの先の小屋に住んでる」

そうか、と小さくつぶやく少年
見た目的に小金井と同い年だろうか、いや、見た目通りだとすると小金井より若いことになる
身体は細く、まるで逃亡者のようなボロボロの服

「この先に住むカヨという女の子を知らないか?」
「…わかんねぇ」

小金井は少年を見て何かを思い出していた
昔よく側にいた1人の男のことを

「そのカヨさんに何の用?」
「久しぶりに会いに行くんだ」

少年は笑った
八重歯が片方欠けている
小金井はついて来てほしいと言われたので、水を小屋に持ち帰り、紅麗に一言告げて少年と共に村へ向かった

川からすぐの山道を下り、村の近くまでやってくると、少年は小金井の袖口を軽く摘んだ
緊張しているのだろうか少し奮えを感じる

「カヨー」

近くの女の子が少女の名を呼んだ
2人のいる道の正面で、名を呼ばれた少女が振り返る
凛々しく整った顔立ち
歳は20前くらいだろうか
女の子はカヨに近づき、山で採ったであろう山菜を渡していた

カヨの後ろには、少年とは似つかないたくましい男性がいた
幸せそうに笑うカヨの姿から、夫婦であろうということはすぐにわかる

「…どうする?」

小金井が少年に問う
少年は何も言わず山道へ戻っていった
小金井はカヨをちらりと見て、少年の後を追った





「カヨは、僕の幼なじみで許婚だった」

少年は、山道を歩きながら言った

「でも、僕が勝手に村を出て行った。僕は強くなりたかった。カヨを守ってやれるくらい」

話によると、少年は身体が弱く、いつもカヨに看病をうけていたようだ
そんな自分を改めたくて村を出て、近くの別の村で働き、体質にも変化がみられたため帰省したらしい

「村から出る時に、覚悟していたはずなのにな」

少年の言葉に、小金井は彼を思った
自分も忘れてしまうのだろうか、大好きだったはずの彼を

「きみも、好きな人がいるだろう?」
「うん。ここにはいないけど…」
「なら、忘れずにいてあげて。こんな思い僕だけで十分だ」

彼を苦しませないためにも想い続けたい、と小金井は決意した

少年と川へ戻る途中、カヨが山道を歩いていた
挨拶をすると、笑顔で返してくれた
彼女は何を思って許婚を捨てたのだろう
そう思いながら、小金井は少年を見た

「やっぱり、カヨの笑顔は一番だ」

僕がカヨを好きだったのは間違ってなかった、と少年は笑った

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残る記憶と近づく恋心


どれだけ思っても
もぅお前はここにいない

みんながお前を忘れても
俺だけはお前を思ってるから

だから…










「おはようございますアラン殿」

毎日来る朝が嫌いになりそうだ
夢でしか会えないお前を掻き消してしまうから

「今朝は王女様もお早くお目覚めになられていましたよ」
「そうか。あれから今日で15年だもんな」
「あれ、とは?」

戦争もなく平和に暮らせる時代が来た

そのため、あの時代を忘れようとする民衆も多い
城内の使用人にも、その傾向があった

なんでもない、と使用人との会話を終わらせ大広間へと向かった





渡り廊下をいくつか渡り、中庭に出た
色とりどりの花が咲き、噴水の上げた水により虹が見える
そして、その奥に懐かしいベンチがあった

あいつはよくあそこでジャックと話をしていた
俺がベンチで寝ていたらいつのまにか隣にいた

初めてあいつに好きだと言った場所

ふと金髪が横切った気がした
当然気のせいだったが、つい辺りを見回してしまう

「どうしたのアラン」
「スノウ…」

いつのまにいたのか、スノウが隣で覗き込んできた
腰まで伸びた黒髪が日光に当たり輝いている
頭のリボンが少しの幼さを感じさせるが、もぅ十分大人の女だ

「ギンタのこと考えてた?」
「お前だって考えてたろ」

そう言って悲しそうな表情になる
毎年そうだ
例外なんてない

「平和であることがこの世界にはいいことなのに…また戦争が始まれば、みんなといれるのにって思っちゃう」
「……」

みんな、の中に含まれる異世界の住人を思い出す
虹の向こう側に、金の髪の少年を思い浮かべる
スノウと同い年だから、今は青年

ダンナみたいな男になってるだろうか
それとももう少し幼さを残してるだろうか

いもしない彼を想像し、アランは王女と共に大広間へ向かう

王女の手はアランの手に触れるか触れないかの位置でさ迷っていたが、アランはそんなこと知りもしなかった
彼の手には、少年の温もりと柔らかい髪の触感しかなかったから

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期待と後悔

空の青さが少し鬱陶しく感じたが、俺はあの森に来ていた
昔、ダンナを見つけた森

何となく、ここにくれば会える気がした

「いるわけない…か…」

当たり前のことなのに、期待してしまっている
あいつが俺を呼んでくれることを

思えば不思議な感覚だった
あいつと過ごせるなら何でも犠牲にできた
周りになんと言われても一緒にいたかった
あいつとの時間を大切にしたかった

俺を呼ぶ声に、喜びさえ感じていた
独占欲とは違う、不思議な感覚

『オッサン』

あの声に、名前を呼ばれることはほとんどなかった
だが、名前を呼んでほしいと思ったことはない

皆が呼ぶ名前よりも、あいつの呼び方が貴重な気がしていたから

「ギンタ…」

帰ってきてほしい
この世界に…
いや、俺の元に


抱きしめることしかできなかった
それ以上踏み入るのが怖かったから

否定されるかもしれない恐怖
距離ができるかもしれない恐怖

俺を呼ばなくなる恐怖

だが、踏み入ることなく生まれた孤独

こんなことなら…と後悔するのは最低だろうか

「んがぁ!!」

考えるのもいやになり、そこに寝転がった

いないんだと思うほど探してしまう自分が情けなかった
誰かで妥協するのも嫌だった

もう一度だけでいいから、あいつを抱きしめたかった
一度でいいから、あいつに口づけたかった


「アランさん」
「アルヴィス…」

いつのまにいたのか、気づかなかった

「なぁアルヴィス。お前は、ギンタに帰ってきてほしいと思うか?」
「…帰りましょう」

その声は冷たく、現実を突き付けられる感覚を覚えた
諦めきれなかったが、城に戻ることにした

アルヴィスの横顔が、少し寂しげに見えた

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