先生を意識し始めたのは、5月に入ってから。



あたしは吹奏楽部に入部してて、部活終わる頃にはいつも7時を回ってた。

仲良しさんたちとバイバーイして、1人で人気のない道を歩く。



公園の前をさしかかったとき、前から自転車。

よけようとしたら、あたしの前で止まったの。


「何してるのー?」

ニヤニヤした若い男がいきなり話しかけてきた。


「どこか行こうかぁ」



…怖い……!

逃げようとしたけど、足がすくんで動かない。


男が自転車を降りる。



……先生、先生、先生…
助けて………!

なぜかあたし、心の中で叫んでた。


そしたら、走り出せた。
家とは逆の、学校のほうへ。


男が追ってこないか確認すら出来なくて、夢中で走った。

先生、助けて!
ってその一心で。



学校に着いたら、怖さと疲れがドッと出て、あたしその場で泣き出しちゃったの。


「…杏か?」

パッと顔上げたら、まさかの先生。
ドラマみたいだった。


「泣いてるのか!?どうした!?」

先生が焦ってしゃがみ込む。

ふわっとタバコの香り。


「……へ、変な男に…話しかけら…れて…」

安心したあたし、先生に抱きついて泣いちゃった。

あたし、子供みたいだったね。


泣き止まないあたしを抱きしめて、頭をポンポン。


「怖かったな…。
でももう大丈夫だよ。
杏は俺が守るから」


心臓が、ドクドク叫ぶ。


…恋が、始まる、音がした。




話題:恋の始まり