蛇を踏む







「今日、土方くんと団子屋に行ったんだって?」




夕食後、ソファにもたれてゆっくりとしていた神楽に、銀時が向かいのソファから何気なく聞いてきた。
一瞬、ぎくり、とした神楽だが、何ともない風を装ってうなずく。


「団子、おごってもらったアル」
「……ふーん」


いったい誰がチクったんだと思っていたら、銀時が沖田くんから聞いたと言う。神楽は舌打ちした。


「神楽ちゃん、相変わらず沖田くんのこと嫌いだなぁ……」
「大っ嫌いアル」


ふん、と鼻を鳴らす神楽に笑って、銀時がうっそりと苦笑いしている。


「土方くんのことは好きなのになぁ?」
「別に、マヨのことも好きじゃないアル」
「そうなの?」


含みのある銀時の声に、神楽はむっつりとして銀時を見あげた。


「何が言いたいアルか…」
「だって、沖田くんよりは好きだろう?」
「そりゃアイツよりはマシアル」


アイツを好きになる女の気が知れないネ。なにかモテるみたいだけど…。まだマヨがモテるのはわかるヨ。
そんな事をつらつらとのたまう神楽に、銀時がいつしか真顔で見つめ返してくるので、びくりッ、となった。


「な、なに……」
「なんで嘘つくの」
「え……」
「おごってもらったんじゃないだろ。神楽がおごったんでしょ」
「………。」


銀時が死んだ魚のような眼をぬめらせて聞いてくる。


「……ぁ……」


まるで蛇に睨まれたカエルのようになって、神楽が委縮した。


「嘘ついたな、神楽」


銀時がソファから立ち上がった。


「ぁ、ちがっ……」


神楽はソファから立ち上がることもできず、後ずさる。
だが、銀時がのしのしと近づいてくるので、神楽は首をすくめて下を向いた。


「なんで嘘つくの」


目の前に銀時が立っている。仁王立ちだ。
その威圧感に、神楽は瞬間的に立ちあがって逃げようとしたが、銀時が一歩早く神楽の手首をつかんで、ソファに押しつけてきた。
バランスを崩した神楽が、銀時に馬乗りになられてソファに倒される。


「いやっ…!!」
「なんで嘘ついた!!」


銀時の怒号が居間に響き、神楽はビクリッと震えたが、気丈にも銀時を涙目で睨み返した。


「こ、この前、おごってもらったから、お返ししただけだモン……!」
「じゃあ、そう言えばいいだろ。なんで嘘ついた」
「だって、銀ちゃん……怒るから……」
「当たり前だろ。デートみたいなことしやがって……」
「デ、デートじゃないヨ…。ココアおごってもらったから、そのお礼アル」
「そんなこと神楽ちゃんが気にすることじゃないだろ」


そう、神楽は誰かにおごってもらっても、それが当然というような小悪魔なのだ。
女の子は男に優しくしてもらって当然だし、そういう教育をお妙から受けている。
銀時にさえそんな気遣いは見せたことないのに、土方には見せるのかと、銀時は芯から燃え上がるような嫉妬心を爆発させた。


「土方を殺しに行くか」
「や、やめてヨ…! 私が軽率だったアル……ごめんなさい」


浮気なんてしてもいないのに、こんなことで軽率に殺人事件が起こるなんてお先真っ暗だ。


「お、怒らないでヨ……。もうしないから」
「当然だよな。もう二度と会わせねーぞ」
「偶然会っただけアル!」


もう会わせないと言われて反論する神楽に、銀時が掴み上げている手首の力を強くした。


「いッ、いたいヨ……ぎんちゃん、」
「浮気したいのか、神楽ちゃん」
「したくないアル! だから、そういうんじゃないアル…っ」


お漏らし事件のことをやっぱり銀時には知られたくない神楽は、必死に言葉を選んで、嘘つきにならないようにしていた。
一度ボロを出すと、そこから芋づる式に銀時にはバレるとわかっているのだ。
言わなくてもいい余計なことは言わず、事実だけを口にするのが、嘘がバレない方法だと、この前テレビで言っていた。
生憎、神楽は嘘をつく時に、少し唇の端がくぼむ癖があるのだが、嘘さえつかなければ、それは銀時にもバレない最善の方法だった。知らず知らず神楽は、その方法をとっていた。
どこまで隠し通せるかはわからないが、神楽はあの事を知られたくな一心で、銀時に真実を隠した。罪悪感は驚くほどない。だって、銀時が原因だからだ。銀時があんな触手アメーバで神楽を調教さえしなければ、あんな事件は起こらなかった。ぜんぶ、銀時が悪いのだ…。神楽はそう思ってる。


「浮気じゃねーんだな?」
「だから、浮気なんてしないアル。これでも貞淑な人妻アルヨ」


貞淑なんて言葉を知ってたのかよ、と銀時は呆れるが、神楽はくすん、くすんと鼻を鳴らして、「銀ちゃんだけアル…」なんて殺し文句を言ってくる。これも、おべっかではない。真実だから神楽は口にするのだ。


「じゃあ、今度から、土方くんとは喋るだけにしろよ。 どっか行くのは禁止な」
「缶ジュースおごってもらうのも駄目アルか?」
「まぁ……それくらいは、いいけど。神楽ちゃんからおごるのはナシな」
「うん」
「返事は、はい、な。神楽?」
「はい」


素直な神楽に怒りをおさめたのか、銀時が、はぁぁぁ、と溜息をついて神楽の胸にもたれかかってくる。


「俺がほんとは、嫉妬深い男だって、神楽ちゃんちゃんと解ってるよな?」
「……わかってるアル」
「浮気したら、絶対に許さねぇよ?」
「はい…」


神楽のJカップの爆乳に頬ずりしながら、銀時が上目遣いに、ぬめるような蛇の瞳孔で見つめてくる。


「でも、嘘ついたからには、お仕置きだぞ」


仄暗く、昏々と言ってのける銀時の眼には、狂気が映っている。
どこかに、正常とは程遠い恍惚が垣間見える。
神楽はそんな銀時にぶるりと震えると、同じくどこかゾクゾクとした恍惚に追いやられ、アソコがじゅわりと濡れるのを感じた。
そういう風に、もう造り替えられてしまっているのだ。
銀時に心身ともに造り替えられてしまった神楽は、悲しくなるほど従順な自分の身体の変化に顔を赤くして、銀時を涙目で見つめた。


「ひどくしないで……」
「また、赤縄で縛ってやるよ」
「いや……いや……っ、ひどくしないで……」


もうそれしか言えない神楽に、銀時が起き上がり、少し指の痕がついた細い手首に唇を押し当てて、接吻けてくる。
さながらお姫様を護る騎士のような仕草だが、神楽を雁字搦めの赤ちゃん抱っこで抱き上げた銀時は、和室に一歩踏み出した。
ギシギシと、板間に二人分の重みが響く。
がっつりと、ねっとりと、ドスケベセックスというより、えぐい調教セックスがこれから待っているのだ。
度を越したSMプレイをするわけではないのだが、銀時の調教セックスはとにかく執拗で長かった。
今宵も、神楽は銀時の城に連行されて、朝までその激しい調教セックスに甚振られた。
それだけで済んだと思えば、むしろ僥倖なのかもしれない…。





fin


more
08/06 17:14
[銀魂]




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