ナイトメア







馬、猿、インコ、あるいは人間の男。



ナイトメアはインキュバス=夢魔、
淫魔ともいう夜の妖怪で、夜な夜な独り身の女のベッドを襲っては、女の肉体をもてあそぶ。
おおかたは馬や猿のような動物の姿をしてあらわれ、現にベッドの天蓋幕の陰から不気味な馬が覗き込んでいたり、枕元に猿のような怪物がうずくまっていたりする絵が、古い時代にはあるくらいだ。そこに寝乱れた女が恍惚の表情を浮かべてのけぞっている。



少女への夢魔たちも、馬、猿、インコ、あるいは人間の男、その他なんともいいようのないモノノ怪じみた量塊となって、寝床の神楽に覆いかぶさっていた。
どれもどこかで見たような化け物である。
モノノ怪じみた量塊は、怪物的な顔見知りの陰獣や、身近な男の男根、その像を思わせるし、かつて家族と過ごした部屋で飼っていたウサギのペットのように、インコも、猿や馬も、その現実のどこかの頁からやってきたように見える。
秘画めいた其処では、大蛸が少女の女陰を吸淫している頁も捲られる。
ある意味、そういう現実にない記憶も、随所にはめ込まれている。
そしてどの場面でも、若い娘は馬や猿に陵辱されているが、しかしこの悪夢たちは、かならずしも神楽だけの潜在意識からやってくるのではなかった。



沖田総悟。



──娘につき纏う、悪徳警官の鑑。
──地球人でありながらサディスティック星の王子さま。


オカルトグッズで日々新たな呪詛をしたためては、そこから題材を汲み、奇矯なアフォリズム呪文を唱え、過激な奇行を演じている。
専門は黒魔術でありながら、表現は和洋折衷──。異様で滑稽すれすれ。
同じく彼女に過剰な執着をもつ上司をして、


「人格を粉砕する天才的なサディスト」


などと、その本性は「誤謬の模範例」、「犬畜生」、「狂気」といわしめた。
しかしあまりにも驚異的に対象の人格を、またはその盲点を悪辣に貶め、強調しすぎるために、時に対象は自然らしさを失って、廃人と化してしまう。まさに誤謬の模範例が出来上がってしまうのだ。
ついでながらそれは、沖田自身についていったとしても、ほとんどそのまま通用しそうな誤謬だった。
沖田が神楽のナイトメアに分身を見出したのは、ほぼ確実である。いや、この分身にもうひとひねりを加えた。


【人格を粉砕する天才的なサディストをパロディー化する天才的サディスト】


に、意識的に自分を仕立てた、といえばいいだろうか。
呪詛となる護摩を、夜な夜な娘の睡る棲家の方角へと焚きしめ、沖田は、この男は、そこから強調的に淫夢を抽出した。
つまりそれが、神楽の夢に呪詛を放った彼自身のコピーなのである。


インキュバスは今宵も羽ばたく。


娘の家の、娘の夢の、その中へ、カラダの奥へ、一直線に。










fin



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02/13 21:40
[銀魂]




・・・・


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