フラジール -2-









永遠を願うなら 一度だけ抱きしめて
その手から 離せばいい

なんて 誰かは嘘をいった














頭が真っ白になった。衝撃なんて大層なものはなかったが、頭の中が真っ白で何も考えられない。


「……知ってる」


安らかな声色とは裏腹に、何故だか泣き笑いのような表情になってしまった。それを見た神楽が、息を詰めて、はっと我に帰るのを見て、抱きしめることしか出来なかった。


「俺も―――」
「銀ちゃんは言わなくていいアル」


取り繕おうと思って口を開くも、それをアイツ自身が遮ってしまう。
この先の答えを本当に欲しがっていたのは、もしかしたら、俺だったのかもしれない。それでも、神楽はその先を口にすることは許さなかった。


「私が、銀ちゃんを好きなだけアル」


つよがりだと自分でも十二分にわかっていただろう。悲しいくらいに。


「俺も好きだよ」


その声は、一度は風に掻き消された。
しかし、俺はもう一度大きな声で噛みしめた。


「俺も好きだから」





一度は、神楽は答えを出すことを許さなかった。いや、答えを出せない俺を許した。
強引そうに見えて、優しい。実にアイツらしいやり方で。
それを、馬鹿だと怒ったら、神楽は傷つくんだろうか。そこら辺にいる女のように、目尻を下げて、その綺麗な瞳から涙をぽろぽろ零すんだろうか。
そうなったらそうなったで、構わなかった。アイツの泣き顔をこの世で一番愛しく想っているのは、間違いなく俺だから。
だって、恐らくアイツは気づいていなかったから。だから、感情を消して、押し通したんだろう。優しさというオブラートに、恐怖心を包み隠して、強引に飲み込んで。答えを出さない俺を赦したフリをしながら、そうすることで繋ぎ止めようとしていたのかもしれない。
でも、俺は変わりたかった。神楽が許しても、俺が許さなかった。
自分たちが平行線のまま変われない最大の要因など、あるはずもないのに。
いつも、飲み込んでいたはずの言葉が、行き場を失っていたはずの言葉が、今ここにある。果たして、今日の言葉に続く台詞は必然としかいえない。
そのことを、アイツは知っいると思っていたのに。自覚はなくとも、どこか本能的な部分で。もし、自覚があったとしても、口にしないだろうことは目に見えている。結局、何かを変えようと思うなら、自己犠牲ではどうにもならないということだ。


そうだ。 いつだって、自分自身すら理解できていない。


痛いと言えないのではなく、痛いのに気付かないまま、自分を犠牲にしてしまうケースが多い。今までの俺たちのように。
自分が痛いよりも、相手が痛い方が、返って傷付くことが多いから。罪悪感に押し潰されそうになることがない分だけ、そちらの方が気安かった。
だから、今までの俺たちのそれは、優しさなんかじゃない。相手を傷つけると知っていながら、犠牲にしているのだから。




大分傾き始めた太陽が、赤みを帯びる。その楽園のような満ち足りた美しさといったら───、例えようもない程で。
手を繋ぎ、ともに歩く神楽の高揚が、そのまま伝ってくるようだった。
結果、万々歳だけれど、変わろうと意気込んだ自分が、神楽に先回りされて、しかも全てを許されたのだから、みっともない。それにいち早く気付いて、ブレーキをかけたのが、アイツのつよがりだと気付いて、それに甘えてばかりじゃいられなかった。



結局、こうなる運命だったということだろう。
繋いでいた手がジリジリと熱い。
身動きが取れなくなるくらいに、俺は波に引き寄せられるように、もう一度神楽を強く抱きしめた。







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07/03 16:38
[銀魂]




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