淋しいドラム缶を叩く旅







足先で砂を躙るようにしていた。その動作は十三歳の、まだ子供の域を出ていない女の動作として珍しいものではなかった。だが、そこには一種の、知らずにいてする挑みのようなものが濃く滲んでいた。憎くなるほどの甘えが、その時、薄い桃色のワンピース一枚の神楽全体に滲み出ていた。



当時も今も、沖田を襲っているのは一種の不条理な想いである。神楽を懲らしめてやりたい、なにかの形で、神楽を罰してやりたい。思い知らせてやりたい、というような想いである。狂暴なものを含んだ、もやもやとしたものである──。
海に遊びに来ていた万事屋と、真選組が鉢合わせしたのは、もう遠い過去のことのように思えたが、沖田は今でも鮮明に覚えている。2年前も、今年も、沖田にとっては人生の一大事だった。
それは、神楽が海岸を歩いていて、沖田を見た瞬間からすでに沖田の内部に持ち上がって来ていたものだ。沖田から目を離したら、なにかの危険があると信じているかのように、神楽はじっと沖田に目をあてて立ち止まった。そうして立っている足先で砂を躙るようにした。その動作は当時十三歳の、そして今年十五歳の、まだ子供の域を出ていない女の動作として珍しいものではなかった。だが、そこには一種の、知らずにいてする挑みのようなものが濃く滲んでいた。憎くなるほどの甘えが、その時、ワンピース一枚の神楽全体に滲み出ていた。それは体と精神の内側から、蒸し出されるもののようだった。沖田はその時、神楽という女に特有の、気孔の殆ど無いような皮膚が特に顕著な、神楽の胸の一部に、また、肩から、まだ熟しきらぬ腕に、もうそこらへんは完全に女になっているような縊れた腰から露出した両脚に、飛びかかって押さえつけたい、そうしないでは我慢のならない、狂暴な欲望を覚えた。ワンピースを持ち上げている固い果実のような乳房にも、邪悪な、というようにも思われる欲望を覚えた。神楽の胸の二つの果実は、十三歳の頃は、両方の脇の下に寄り気味に、離れて付いていたのだ。それが、その離れてついていることが、更に挑発するものを沖田に感じさせた。神楽が、沖田から目を離さずに、じっと立っていて、足で砂を踏み躙るようにしているのが、その欲望を大きくした。その欲望の中に、サディスティックなもののあることを沖田はその瞬間に、知ったのである。


沖田は、たった数度の機会で、神楽をとり逃した。そうして懊悩の二年間を過ごしたが、その凶暴ともいえるものが、その懊悩の二年の間に深部に入った。沖田は意志の力で苦しみを乗り越え、神楽を見ぬ前の、静かな日々を自分の手に再び捉まえようとした。そこに手が届きそうにさえ思われた時期もあったが、その間にも欲望は深部に入っていたのだと、いま沖田は気づいている。しかも先日、再び海で遭遇し、また公園で出会った日から、欲望は新しく火を点けられている。長い間抑えていた神楽への火、狂暴を蔵した烈しいものが燃え上がった。その烈しいものが今、どうにもならない所まで来ている。
沖田は爆発しそうになっている逸物を掴んで痛いぐらいに扱き上げた。
ドロリ、と下肢が蜷局のような渦を巻く。
神楽を想い、神楽だけを狂ったように思い浮かべ、過去の神楽もすべて走馬灯のように思い出すうちに、沖田は激情を吐き出した。



しばらくして、沖田は下唇を強く噛み、何処を見るともない目を宙に据えた。
一昨年の夏、サラサラとした前髪を無造作に垂らしていた頭が、自然に前髪を割り、横撫でにして、短く、刈ってある。
二十歳になって、少年ぽさがすでに消えてきていた。背もまた少し伸びて、ガタイもよくなった。
額の下に光る目は凶暴なものを宿しているが、沖田の風貌は英知を湛え、隆盛を誇っている精悍な兵士のように見える。この頭に変えたのは苦悩の日々が長く続いて、長い前髪が重苦しく感じられたからだが、この頭も沖田には非常に似合って、女にはすこぶる受けが良かった。だが、沖田はそんなことはどうでもいい。
顔のことにせよ、才能のことにせよ、批評めいた言葉に向かっては貝のように表情を閉ざしている沖田だが、そんな女たちとは違い、こんな自分を見ても、久しぶりに何の興味も示さなかった神楽を思い出して、疲れたような表情を覗かせた。
土方と違って、自分は神楽とは逢わないようにしていた。心持ちは変わっていないが会う日数は減っている。
もはや、どこにも逝けない心だけを抱えて、沖田は暗く息をついた。










fin


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06/28 18:09
[銀魂]




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