たぶんセンチメンタルな愛の理想







青い満月の9月
スモモの木の下で
青ざめた恋人を抱いた
甘い夢のようだった

上に広がる夏空
僕は雲をながめた
真っ白で手が届かない
見上げると雲は消えていた


──ベルトルト・ブレヒト
















もうそこまできている眠気にしずかに息を吸い込んだ。



思春期を終えて成熟し、大人になるということ。
少女にとって大人になるとは、時間というものを知り、自分の背後に人生の一部を残し、振り返ってその一部を眺めることができる女になるということ───。それは正しい。





たぶんセンチメンタルな愛の理想





銀時は茫洋としながら、自分の人生のもっとも美しい部分がゆっくりと、永久に遠ざかってゆくのを眺めていた。
彼にとってはもうこの過去しか存在していなかった。
自分が姿を見せたいと願うのはその過去で、話しかけ合図を送りたいと願うのはその過去だ。



───終わり。



銀時が神楽に終わりを約束するなら、彼女としては彼に何を約束してくれるのか?
自分の文句は脅迫をふくんでいる。
神楽の文句もまた、別の脅迫をふくむものとなる。


もう存在しなくなってしまうその美しさにたいする、かぎりない憐れみが銀時に押し寄せた。
同じようにもう存在しなくなってしまうこの世。
もうすでに存在していない、もうすでに近づきがたいこの世にたいする憐れみも。
そこまできている眠気が自分を運び、一緒に高く、とても高く。
その眼もくらむような、
かぎりない光のほうに。
青い、青く輝く空のほうに。
雲のない蒼穹、燃えあがる蒼穹のほうに翔ぼうとしている───。




わかってはいた。だが、まさしく行き過ぎこそが神楽を惹きつけるのだ。
銀時はその恐ろしい展望を描いてやることで、神楽を怖がらせようとしていた。
神楽に愛してもらうために、神父のようなお説教まで考えた。
少女だけに理解できる秘密の合図のように、自分の死を神楽に送ってやりたかった。
銀時は道理をわきまえることを願っていなかった。
控えめに行動することも願っていなかった。
自分の情熱に見とれ、そもそも情熱とは行き過ぎのことなのだと知っていた。
陶酔し、その酔いの外に出ることを願っていなかった。


彼は少女に恋をしていた。


未来など彼の関心を惹かなかった。
銀時は永遠を欲していた。
永遠、止まった時間、動かなくなった時間。
未来は永遠を不可能にする。
銀時は未来を消滅させることを欲した。


銀時には自分の人生から離れ、立ち去り、永遠に近づきがたくなる少女が見える。
彼は呆然とし、遠ざかってゆくその自分の人生の一部分を眺めているほかに何もできない。
それを眺め、苦しむことしかできない───。




現実感覚のありったけを働かせて、銀時は自分の死の計画を練った。
















晴れわたる長閑な午後のひざしを全身に浴びながら…
彼は束の間ひっそりとその最期を夢みる。



fin



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01/27 07:05
[銀魂]




・・・・


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