生恋・死恋(恋の力)








(─────……)




それは、呪縛のように纏わり付いて、俺を動けなくする。
はじまりはいつもこうだ。
まるで呪文のようなその言葉を胸の内に、この儀式は漸く始まることができる。


壊れ物にでも触れるようなくちづけだった。
段々と深くなるそれに、体の芯がいとも簡単に疼いてくるのを感じる。一番本能に忠実で、動物的で、素直な自分が顔を出す。
そんな、半分とけてしまった頭で、考えてみる。
この娘の全てを欲して手の内に籠めていたいんだろうか。そんな“男”になりたいんだろうか。
俺が欲しいのは、その程度のモノだろうか。
幸せな家庭を築いて、彼女をそこに縛りつける、そんな怠慢な人間に成り下がりたいんだろうか。
いや、それは―――




「…違ぇだろ」




しまった、と思ったときにはもう遅くて、首筋に顔を埋められていた神楽が、聞き返すように銀時を見つめていた。
何でもない、と言ってみたところで、訝しげな表情のまま動かなくなってしまった娘の機嫌を直すために、今度は頬をすりよせながら唇を重ねる。


奪い取るように、貧るように、忘れないように。


行為は濃度を増して、遠慮なく理性を奪っていく。
ちいさな背中にすがる手が震えてきたのを知られたくなくて、布団に倒れ込むと、もう一度その呪文を繰り返した。












どこにも行くな












なんてずる賢い台詞だろう。本心なんてこれっぽっちも見せないくせに、己の心でさえ下手に抉っていく。




神楽…。




次こそは、舌にのせて呟いて、声を抑える為に奥歯を噛み締める。
別に、声を出すのが女々しいとかじゃなくて、悔しいから。
臆病者(嘘つき)にはそれなりの保身(制裁)が必要だ。目には目を、歯には歯を、嘘には嘘を。




やんわりと未熟な胸全体を揉みしだいて、舌と指先で突起を嬲ると、ちいさな身体がいとけなく抗うのを抱きしめる。絡まる肢体にこちらの疼きもより一層増す。
それを悟られないように、平静を装って挑発してみると、まんまとそれに乗ってくる。こういうところが、幼さを引き立てる最大の原因だということにそろそろ気づかないもんかと、内心ため息をこぼすも、色を伴ってしまったため、効果は期待できない。
いつの間にか表情が揺らいでいたのに気づいて引き締める。こんな顔すべきじゃ無い──。




……これを言ったらお終いだろうが。本来なら人殺しは、幸せになるべきではないのだと思う。それは罪であり罰であり、そうすることで平穏を保っていきたいだろうから。
それと、不幸の渦に巻き込みたくないヤツを巻き込んでしまうのではないかと不安になるからだ。
侵してしまうような領域もないから、気兼ねなくお手軽な存在なんだと割り切ってきた過去は、コイツには当てはまらない。
選ばれたと思い上がるのもおこがましい。
端からそんな価値すら俺にはない。
愛してもらえないなら、クズのままだ。なんて…。
だから、こんな男に愛されるコイツは、抱かれるコイツは、いっそ……不憫だ。
必然的に吝嗇で、当然のごとく一緒になろうだなんて、これっぽっちも考えちゃいけない。
どんな引け目を感じているにしても、そんな適当な言葉で繋ぎ止めようとするくらいなら、何も言わない方がよっぽどましだ。
だから、その度に嘘をつく。不安なんてないフリをして、だらしなくわらう。
いつか来るその日の為に。
理性のない動物のように。一時でもこの少女に愛されたという事実を、忘れたくないから。
その事実があれば、笑って、何度でも胸のうちで繰り返した台詞を言えるだろうから。








「銀ちゃ……っ好き」

「……うん」








幸せすぎて哀しいだなんて、微塵も見せないで微笑ってみせる。
過去だけの男にはなりたくないから。
あぁ、でももし…この仔が将来もっとずっとマシな男を捕まえて、幸せになってくれるなら、その伴侶になる男を、ただ純粋に羨ましいと思うべきだろうか…。
世間知らずで、汚いものなんか知らないような、真っさらな人間に対する勝手な憧憬でもいい、そんな男なら、自分にはないものだから諦められるといいけど…。
そいつ等のようになりたいだなどと、みじめにも言えるわけもないが、きっとそんなふうに生きれたら簡単だったんだろう。
あんなふうに、身を滅ぼすような愚行をせずに、安寧に肩まで浸かってのぼせ上がっていたんだろう。
でも、俺は敢てその道を捨てた。穏便も悪くはなかったが、望んだものはそこにはないと知っていたから。
後悔とはどこか違うけれど、やっぱり羨ましいと思う。
でもまあ、たとえ自分がそちらの道を選んでも、先の言葉を詐りだと知っていて受け入れている時点で、そんな関係になれるはずがないけれど。
過去はただの共犯者で、本当は“思い出”なんて甘くて綺麗な言葉では例えられない。
血生臭くて、罪深くて、何よりも解き難いカンケイ。
好きなだけ貧って、騙し合って、許し合う。
コイツとも、そんなふうにどこまでも堕ちていけるだけならこんなにも苦しむことはなかった。それが世に言う美徳なのかは定かではないが。







内股をざらついた舌で舐める度に、腰が浮きそうになるのを堪えている。
先より、一番肝心な場所には指一本さえ触れないのだから悪質だ。
意地の悪い攻めたてに毎度のことながら苦しい思いをしているだろうに、止めようとしないのは、このくらいがちょうどいいと神楽も思ってしまっているからだろうか。それなら嬉しい。
ちょっと苦しいくらいが安心できる。
お互い、このくらいが調度いいなら。


こんな一瞬でさえ、奇跡に思えるから。












fin


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03/06 16:51
[銀魂]




・・・・


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