トト・ザ・ヒーロー







神楽は左肩に酷い銃弾を受けていた。
やわらかな白い頬には無数の被爆傷を。
しかも今日は目の下に大きな痣まで作っている。

髪が乱れ、唇が切れ、腕からは幾筋も血が流れていた。

…そして、一片の曇りなき瞳が銀時を見上げる。



晴れ晴れとしたソレ。
何でもないようなソレ。
何事も引きずらない性分はいっそ痛々しいほど自分に似ている。



いつものように、いつものごとく。
これが日常の落とし穴だなんて、呆れたものだが、依頼人の厄介ゴトに巻き込まれるのも報酬以上の働きを要求されるのも、自分だけならこんなにも苦々しい思いはしないだろう。
しかも今回はその仕事のツケで神楽が連れ去られた。

犯人は以前潰した暴力団の下っ端構成員だった。
組織が潰れた為に、生活が苦しくなり、その恨みで一矢報いてやろうと思ったらしかった。その計画の一端でどうやら神楽のことを色々調べ上げたらしい。あの貴重な夜兎の生き残りだという情報を掴んだ。こういった仕事をしていて、万事屋の名が売れれば売れるほど神楽についての情報が公然の秘密となり、尾ヒレや背ビレが付いて廻ることに気づいたのは今より少し昔の話だ。
恨むなんて筋違い。とは思わないが、銀時にとっても神楽にとってもそれは互いの過去に縛られるよりも日常の事、危ない橋を渡ったからといってイチイチ後から報告しあうわけじゃない。イチイチ覚えてもいられない。


大きく括れば、やっぱり自分のそばにいるからこいつは狙われたのか。


組織を潰すときに、実は新八も一緒にいた。
たが基本、万事屋の戦闘要員は銀時と神楽だ。
今回にかぎっていえば、銀時を神楽を狙えば少なくとも傷つけることができれば、また裏の世界でデカい顔ができると思ったのか、最終手段として神楽の処理まで計算ずくだったのか、深追いしないで逃がしてやった恩をわすれたバカな奴ら。

二度目はない。




「…大丈夫か?」


倉庫の奥で捕まっていた神楽に声を掛ける。


「ぎん…」


切れた唇で痛々しそうに声を出した。


こんな光景を何度目にしただろう。
今回と反対側の唇を切っていたのは先月のことだったか。


「ごめんアル・・・ちょっと、しくじったネ」


神楽を拘束していたロープを切る。
神楽は腕をさすりながら、つぶやいた。
右肩の傷はもう塞がっているが相当酷い出血だったのか、チャイナドレスの上半身が赤黒く染まっている。
こいつを捕まえることが出来るほどの代物だ、普通の銃ではなかったんだろう。
少しよろけた小さな足元に咄嗟に腕を腰にまわして支えた。


「大丈夫アル」


いつもいつも、こいつは怪我すると俺に何でもないという。

バカらしくて、聞いてもいられない。
血のついた木刀を腰に戻して、ヨイショと神楽を抱き上げた。


「…わっ!」
「オラ、おとなしくしてろ」
「ぎ、銀ちゃん…!」
「急いで帰るぞ。夕飯までに戻らねえと新八が心配するしな」


あーあ、バイクのキー付けたままだったわ。良かった盗難に合わなくて。
そう言ったら、神楽がふてくされたように笑って首筋にすがりついてきた。











fin


涙は最後まで取っておくのだよ。



05/07 17:45
[銀魂]




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