静脈に育つユリ







約束は約束であって、絶対ではないのだ。


たった1週間前の出来事を、このだらしのない男が覚えているかもあやしいし、じっさい興味もないのだろうから。
あんな気紛れ──ホントにそうだ、この男にとっては気紛れ以外のなにものでもない──で起こした男の軽い口約束を、神楽がいつまでも拘り期待するのは何か違うし、それを忘れてしまったとして根に持ち責め立てるのもおかしな気がした。
だいたいこの男に、「今」以上の何かを期待するのは気が引けるのだ。
基本的に神楽はわがままな子供ではない。決して恵まれた生まれではなかったし裕福でもなかった。
一番甘えたい盛りの頃には母親は病に伏していたので、そんなふうに出来なかったというのも大きい。
だから、我慢することには慣れていた。
嫌というほど知っている。
果たされない約束などいらないけれど、そんなのは我侭だ。
自分はそれに何度裏切られ傷つけられてきたか知れない。
それでも信じ続けることも、待ち続けることもやめようとしなかったのは、あの頃の自分がそれしか出来なかったからだ。
まだ、“孤独”を孤独として知らなかった頃。
譬えようのない寂しさに縋りつく希望を見出すことしか出来なかった。


そう、ただの口約束。


雑多な日常に紛れて記憶の片隅に追いやられ、たぶんもう思い出されることもないほど小さな小さな存在となって埋もれてゆく。
重要でもなければ、とうに忘れてしまっても支障のない内容。
実に馬鹿げたくだらないコトなのだ。
むしろあの残念な天パの中身を心配してあげたほうがいい。アイツの頭の中はきっと糖分しかつまっていないから。
近い将来大変なことになるんじゃないか。頭パーンなんてなっても全然おどろかない。
それに、相手の頭が残念だからといって、うじうじといつまでも引きずるのは自分らしくない。
どうせ慣れている。
そう言い聞かすことにも慣れている。
いやな慣れだな。
そう思わないでもないけれど。
自分には一週間前の出来事を、今さら掘り起こしてまでわざわざ甘えることはできなかった。


「……んだよ。嘘つき、」


何度となく繰り返した日常を、今日もたどってゆく。










fin


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08/05 02:44
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-