二束三文

同時刻


来良学園が来神学園と呼ばれていた頃。
名物と呼ばれるのに相応しい喧嘩があった。

平和島静雄と折原臨也。


現代に致までの長きに渡る喧嘩の一端。
互いに傷付け、傷付けられ校舎を壊す。
止まる事のない破壊の連鎖。



静雄がロッカーを机を投げる。
まるでボールを投げるかの様な気軽さで。
臨也が避ける。

それは親しい友人の悪戯に乗る気軽さで。


周りに響くは破壊音。
窓が粉砕し、壁に机がめり込む。
周りには教師も誰も居ない。巻き込まれたくない彼等は遠巻きに眺めるだけ。




「シズちゃんもさー、いい加減毎日毎日毎日飽きない?」

「手前がくたばりゃ良いだけの話だろうがっ!」

「嫌だよ、俺痛いの嫌いだし。」

「くたばりゃ一瞬だぜ?だから死ね。」

「シズちゃんが死んだ後にね」


走る。
走る。


互いに距離を詰めることなく、階段を上がっていく。
現代は数少なき解放された屋上はサボリの絶好スポットでもあった。



臨也の体力は標準より上であっても静雄には叶わない。
少しずつ息を切らし始めた臨也とスピードを上げ始める静雄。
距離は徐々に詰まって行く。


階段を登りきる。
扉を派手な音と共に開ける。

金具の軋む音が響いた。

静雄は退路を塞ぐ様に扉の前に立ち、臨也はフェンスを背に距離の空いたまま対峙する。

「…追い詰めたぜー?いーざーやーくーん」

「実は追い詰められたのは君かも知れないのに偉く自身満々だねえ、ああ早く死ねば良いのに」

「はっ、減らず口を…。んな無駄口を聞く時間は俺には一分一秒たりとも残されちゃいねぇんだよっ!」

「今こうしてる事がそれに矛盾してるとは考えないのかな?」

「…死ね。じゃなきゃ殺す殺す、殺す」

「ボキャブラリー貧困ってヤだね、頭悪そうに見える。あ、元々悪かったんだっけ?」

「死ねや、イザヤァァッ!」




静雄は後ろにあった扉を腕力のみで外し、なんの忠告もなく投げ付ける。臨也も避けるべく足を横へ踏み出した瞬間、背中が何かに引かれた。



敗れたフェンスの一端が臨也の服に引っ掛かっていた。
其れに気を取られ、反応が一瞬遅れる。

それはまるでコマ送りの様なスローモーションで臨也の目には映った。


目の前まで迫る扉、その背景の様に臨也以上に驚愕の様子の静雄と一瞬目が合った気がした。




気の所為かどうかは分からない。
臨也の身体を腕で守ったとは言え鈍い痛みと共にフェンスを突き破り吹き飛ばされ、宙に浮いていた。


宙に浮いた身体は重量に従い落ちていく。
人が飛ぶことなんてできない。



臨也は意識のあるまま青い晴天と何かを叫ぶ静雄の口元だけを見て、落ちていく。

危機一髪

それは日常の中の非日常。



何時もある日常。
今は無き日常。



切欠など何処にでも落ちている。
あとは張られた罠に落ちる獲物の様に。

待ち続ける。
幾ら時が忘れても。



それが取り払われる事はない。






池袋某所。

今日も空に自販機が舞う。
日常の1コマであり皆が避ける非日常。



「イーザーヤァァァ」

「シズちゃんしつこーい」

「てめーが殺されりゃ全て終わるんだよっ!」

「嫌だよ、俺殺される気ないもん」

「男がもんとか言うんじゃねぇ、気色悪ィ」



標識が投げられたら。
コンクリートに抉れる爆音が響く。


力で無理やり捻り切る標識は歪に歪められ地面にめり込む姿に周りは悲鳴を飲み込み退散する。


逃げ回る男は折原臨也。

追い掛ける男は平和島静雄。



彼らの日常は今日も続いている。




臨也が走る道には至る所に標識が突き刺さる。
投擲にも似た行動であるも静雄にはコントロール力はない。ただ力に任せ投げ付ける。
目に留まる物全て。
臨也も逃げてばかりでもなく服は裂け肌に細かい切り傷を作る。

静雄は投げる。
標識がなくなれば自販機、鉢植え、バイク。


臨也は逃げない。
否、言葉に語弊があった。
逃げ回るには逃げ回る。しかし、完全にその背中を見失う事はない。布切れの様にコートが視界の端に映る。
其れに激昂する静雄はまた標識を投げる。

悲鳴が鳴り止む事はない。
人の隙間を縫う様に進む臨也に苛立ちを隠せない静雄は舌打ちを繰り返す。


投げ尽くした静雄は看板を手に取った。




静雄は爛々と目を輝かせ再び臨也に向かい看板を投げ付けた。



「イザヤァァッ!」






静雄には臨也が故意に当たったとしか思えなかった。
それは錯覚かも知れないし今の臨也に確認することは出来ない。


静雄の投げた看板に臨也は腹部に当たっていた。今まで逃げていたのは嘘の様に足を止めて、受け止める訳でもなく防御するでもない身体は投げ出された。


運が悪かった。
そうとしか言い様が無いほど宙に投げ出された臨也は後になって語る。


投げ出された先にあったのはスピードに乗り臨也に向かうトラック。



周囲の悲鳴と驚愕と、トラックのクラクションの不協和音。




静雄はその場から動けないまま目を見開いていた。







臨也が笑った気がした。
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