買った本に付箋が貼りつけてあったの
瀬尾まいこ『卵の緒』
中編が二つ収められているデビュー作。
いずれの話も家族(厳密にいえば「家族」というだけではなく、家族との絆に匹敵するような、誰かとの心地よいつながり、というべきなのだろうけどここでは家族と括る)がテーマになっている。あと特徴としてはご飯の描写がとにかく多くてとにかく美味しそう。
食卓を囲む、という行為が繰り返し描かれる。繰り返されるシチュエーションだからこそ、人物たちの関係に少しずつ変化が起こっていることがわかりやすい。
〈すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ〉
(「卵の緒」より)
心理テストのようでどきっとする。
表題作「卵の緒」は、自分は拾われた子だと信じながらもあたたくコミカルな日々を送る息子と母親の関係を、
続く「7´s blood」は父親と愛人との間に生まれた半分しか血の繋がらない弟と暮らすことになった姉の奇妙なきょうだい関係を描いている。
どちらもテーマ自体は深いものを書いているけど押し付けがましいところやお涙頂戴なわざとらしさのない、さらりとした書き味がよい。
個人的には「7´s blood」が好き。
ぐっと締め付けられるような余韻があって、苦しいのだけど、その切なさを書ききったところが好き、というような作品。
最後にわーっと泣きたくなるような終わりかたが好きなんだろう(私が)。
あと、切迫した姉弟関係が書かれた話が好き(私が)だからというのもあるけど。
最後にふたりがする、ある行為があって、あの場面は賛否両論あると思うけど個人的にはあれでよかったと思う。ああしないとおさまりがつかない、それくらいの関係だったと思うので。
終わるのがわかっていて、抗わずにそれを享受する話というのは切ない。でも反面美しいと感じてしまうのは読者である私には介入することのできない、手の届かない世界に彼らが存在することを思い知らされるのが好きだからなのかも。
付箋は二枚の頁に貼られていて、どうしてそこに貼ったのかは読めばなんとなくわかった。元の持ち主にとって、おそらく残しておきたい言葉がそこだったのだと思う。
どちらも「7´s blood」のほうに貼られていたから、その人もこっちのほうにより思い入れがあったのかな。
付箋を見ながら知らぬ元の持ち主を思う。いわば私にとってはこの付箋が「卵の緒」のようなものだ。
「卵の緒」は雰囲気としては「ぼくは勉強ができない」に近いものがあって、こちらも月並みな言葉でいうととてもよい作品というか、読んでよかったと思える話だった。
ただ正直に言うと、君子さんは魅力的な女性だけど、魅力的なだけではないな、とも思う。けど最後の告白はぐっときた。彼女の言葉を彼女の言い方で、彼女の気持ちとして素直に言ってくれたからだろう。
関係ないけど瀬尾さんの書く男の子はなんとなくほもっぽい。いや、読んでもらうとたぶんこの気持ちはわかってもらえるはず。
一貫してテーマになる事象というのはその作者にとっても何かしらの意味を持っていることが多くて、今回の読書でも、つまりそういうことが背景にあるのかなぁと思いながら読んでいた。
思っていたとはいえさすがにあとがきのあの一文はインパクトがあった。
しかし、シンプルながらもいいあとがきだった。
くしくも今回私の母が家に帰ってきていて、またとんぼ返りする彼女を駅前まで送り届けてからこの本を読んだ。
香川に来てくれる人はいるけど、香川に残る人はいない。当たり前のことを子どものように寂しがっているところにこの本を読めてよかったのかもしれない。
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