真昼の月 ミエナイケドソコニアルモノ

2011/08/17 21:39 :龍&あくび本編
58 扉の向こう岸 4-volW



俺の後ろにしがみついたままの徹
どのくらいの時間
そのまんまいたんだろう
俺は 自分の心の昂りが去った静寂に
凄くほっとしていた

「京介」
「ん?」
「悪かった」
「…」
「ごめん」
きっつく 目を瞑って
はぁぁ と息が漏れた
 こないだの橘さんみたいだ
「謝らないんじゃなかったっけ?」
「いや」
「手前ぇのした事 されてみて やっと解ったってか?」
ぴくりと背中越しの体が揺れる
「謝ってもやんだろ?これからも また な?」
体の向きを変えて向かい合った
徹は蒼白い顔を俯けた
「俺は 謝らないし許さない」
ぽた ぽた と絨毯に雫が落ちる
「俺はさ 許せねぇよ 俺もお前も 絶対ぇな」
はっ と上げた徹の顔は戸惑いが溢れて

遠慮がちなノックの音
「はぁい」
勝手に返事して橘さんに呼び出された
部屋を出る時
「橘 今夜は京介が泊まる 頼む」
「畏まりました 徹様」
静かに扉を閉めた橘さんに謝った
「すみません 俺 キレちゃって」
「珍しい物を見せて戴きました」
「は?」
「京介様が我を忘れ 徹様の涙 良い事です」
「やっ いいって」
にこやかな橘さんについて廊下を歩き
照れ臭くて口籠る
「良いんです お二人共もう少し子供で居て下さいませ」
「はぁ」
「嫌でも歳を重ねて行くんです 皆 平等に ですからゆっくり」
 なんだか解んねぇ けど
  忘れちゃいけねぇって思った


連れて行かれたのは龍ちゃんの部屋
熱があるのか 酷く浅い息継ぎ
ゆっくりと
橘さんが足元の方の掛け布団を捲る
下半身が裸なのに
「えっ?」と声が出て
「しっ」と指差された場所に
裸で居なきゃならない原因と理由があって

 あぁ 龍ちゃんっ ごめんっ

促され居間へ行った
飲まされた紅茶に吹きかけた
「ちょっ これ」
ブランデーたっぷりじゃね?
「気付けです」
きっぱり言い切られて
  急に すとん と
 俺の真ん中に 落ちた
あんなに 出来なかった
  『覚悟』って奴 が
「梶原っすよね?」
「はい あれから龍様が休みがちでしたもので 気付くのが遅れてしまいました」
淡々と喋っても悲しみは伝わる
「橘さんのせいじゃないっすよ」
「京介様」
「なかなか腹括れなかった俺が悪いっ 橘さん?」
「はい」
「俺が決めて良いんすよね?これからって奴」
「もちろんです 京介様」
「じゃ決めました」
「ご存分に」


その晩の鷹栖家の飯は上手くて
お代わりの量は徹を呆れさせ
部屋に帰ると
「やっと京介っぽいな」
と笑われた
前までの徹に
少しだけ戻ったって
俺は思った

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