2012.7.1 12:03 Sun
[小話]
金糸
庭でサンダーと遊んでたら
サンダーが屋敷に興味を惹かれたように向きを変えて注視した。
「サンダー?」
サンダーが吠える。二度三度…
「…ぇ。…う、そ…」
啓は目の前の光景に、正しくは人物に驚いた。
いや確かにそれはずっと待ち望んだことだったけれど。どうせなら目覚めた時の彼の傍に居たかった…とも思った。
「…け、い……啓」
彼の声は掠れていた。
当たり前だずっと…眠って…
サイドテーブルに水差しが常備されていたはずだが、どうやら起き抜けで何も見えてなかったみたいだ。ここまで来たのは啓とサンダーの遊ぶ声が聞こえたからか、途中でボイドに会ったか。ボイドだったらそのままで来させないからきっと前者だ。
レヴィンは少し眩しいのか目元に影を作って歩いてくる。啓はサンダーの背を落ち着かせるように撫でて立ち上がった。
「啓…。」
やがてすぐ触れる距離まで来たレヴィンは、何も言わない啓に不安になったのか眉尻を下げて啓の名を呼ぶ。
啓には何から言っていいか分からなかっただけで、レヴィンを不安がらせたことに少しだけ焦った。
啓はレヴィンを見上げる。白い肌、揺れる海色の瞳、陽光を弾く金糸が眩しい。
彼は、目覚めた。
「なぁレヴィン…。手、出して?」
レヴィンは啓の落ち着いた言葉に従い左手を差し出す。薔薇の痣がある左手を。
啓はその手に自分の右手を重ねた。
右手の刻印から熱は
感じない。
啓は寄り添うようにレヴィンとの距離をゼロにして彼の肩口に頭を預けた。鼻先が首筋に触れる。
「おはよう…。
なぁ、また髪を伸ばせよ。俺、レヴィンの長い髪好きだ」
万感の思いを込めて、啓はそうレヴィンに囁いた。
「啓…」
レヴィンは、包み込むように啓を抱き締めた。
なぁ
ずっと止まってた時間
取り戻すぐらいさ
楽しい思い出をいっぱい作ろうぜ!
]年後
レヴィン/啓
2012.6.14 20:58 Thu
[小話]
黒と白のうさぎ
傾いた本棚散らばった書籍。書棚に本は並ばず、床にうず高く積まれて放置されている。
薄汚れた蔵書室。
読書机に座るのはうさぎ。耳と髪は白い。眼は鮮やかに赤い。
僅かにずれた眼鏡をかけ直し本のページを捲る。
来訪を報せるベルがどこからか響いたのはそんな時。
「やぁ。またこんな辛気くさい所で何の悪巧みだ?」
からかうような一言と共に現れたのはうさぎ。耳と髪は黒い。眼は滴るように赤い。