過去のお話。
SNSを見て、何となく、そう、何となく、僕が高校1年生の頃に好きだった、中学の同期の女の子を探してみた。
ないだろう、と思ったのに、検索結果に彼女の名前が出てきた。
それから、交際中、の文字。
どうやら、2年前からある男の子と付き合っているらしい。
2年前、というと2011年か。
19歳の、頃か。
写真を見てみた、僕が好きだった彼女は、何処にもいなかった。
僕が知っている彼女は、何処にもいなかった。
僕が残している写真の彼女は、何処にもいなかった。
面影だけ、少し香っていた。
衝動的に剃刀を握った。
悲しくなったのか虚しくなったのか、具合が元々悪かったのか解らない。
彼女を好きだった頃、僕は本当に彼女が大好きだった。
最後まで、一瞬ですら報われない恋をしたのは、彼女だけだった。
何だかんだ、僕が誰かを好きになった場合、それは何処かで報われていたらしい。
最後まで、手に入らなかったのは、彼女だけだった。
彼女とは、中学の時に揉めたり仲良くなったりと忙しく、高校に入ってからは、メールのやり取りを毎日していた。
同じものを好きになって、旅行にも行ってお泊まりもした。
彼女に告白したのは、年末、多分、2008年くらいだと思う。
そして、お友達でいよう、と言われた。
そこから半年くらいは、メールしていた。
会うことは、今思えば避けられていたのかもしれない。
彼女に、彼氏が出来た、と謝られてから、メールが送れなくなった。
彼女から来た最後のメールは、いつのものだろう。
保存してある限りは、2012年の2月29日、僕の誕生祝いのメールだ。
確か、この時は、息が止まった。
彼女から来るなんて、思ってなかったからだ。
彼女の名前は、椿とする。
彼女の言葉は、僕によく突き刺さった。
「男だったら付き合ってた」
「男だったら惚れてた」
「代縋以外とこんなメールしないよ」
「代縋といるのが一番楽」
「私には代縋がいるもの」
毒みたいだった。
この度、自分がどうして男でないのか、と思っていた。
男だったら、もう少し簡単に、物事は進んでいた気がする。
そして、過去と今の自分を見て、吐き気がした。
過去は全て戻らない。
あの頃の彼女も、あの頃の僕も何処にもいない。
だけど、どうしてここまで変わってしまったんだろう。
あの時のまま、生き残ったものなんて、傷痕だけじゃないか。
人は変わる、そんな言葉が心底嫌いだった。
変わった先に何を見据えても、何があろうと、変わることが大嫌いだった。
あの時みたいに、男でいない自分が、女混じりになった自分が、死ぬほど嫌いになった。
男っぽさが年々減っていくような、そんな感覚が大嫌いだった。
戻れるものなら僕だけは戻りたい。
戻りたい。
最近、話し言葉の一人称に無意識に「私」が加わっていて、吐きそうになる。
男性でも使えることには使えるけれど、そんなもの敬語の時だけ使えたら良いものだ。
西さんは、僕を女の子として扱う。
不味いことになる、な。
僕は、そういう生き物じゃないんだ。
今があるから、それで良いなんて簡単に言えたものじゃない。
過去の方が、いつだって磨耗されて綺麗だ。
僕はそちらを大事にしたい。