12/11 02:14 不死の鳥(卑弥呼)



 日向は不思議な子供であった。
幼少の頃から何時も何処か遠くの地を見ているような瞳。その目に映るのは気の遠くなるほど遠くの彼の地なのだろうか。日向が女王になるのに余計な策は要らなかった。日向は何時も遠くを視通し、災害を予測した。故にすぐ巫女として都へ上がった。
 都に上がってからは日向は巫女としての占いのやり方、骨の見方などを教わった。父母には会えなかったが寂しさを感じるほど呆ける時間も無かった。
 日向は不思議な者であった。
流す涙は傷口を癒し、月に一度に燃焼日があり蘇生日があった。焔の中の物事を良く知り、焔と仲が良かった。


「眞火、わたくしは禍々しいか」


 呼ばれた側女、日向の世話を焼く少女。巫女見習いの娘は「いえ」と短く答えた。女王が言い出したとは言えただの見習い娘がはい、とは言えないだろう。然し日向はあと七日で燃焼日を迎える為にそこまで気が回らぬようであった。
 この国は女王国家であり女王という巫女が占い、その結果で国政を行っていた。先代の巫女も占いが得意であったが日向ほどの力は持ち得なかった。日向は幼少時から不思議な子供で、先々の事がよく見えた。
故に自分は巫女という正しきものではなく、何か禍々しい者の力を借りているのではないかと日向には思えてならなかった。特に燃焼日が近づくと体が燃える様に暑くなった。吐く息からは焔が出るのではないかと思うほどに蒸発していて冬でもないのに日向の吐く息は白かった。


「恐れながら、卑弥呼さま。私には巫女というものは全て禍々しいのだと思います」
「巫女、全てが…?」


「はい」と頷きながら眞火は答えた。


「他の民が持たぬ力を持つ巫女ですから、間違えば化物と迫害されていたのかもと思うのです」
「ふむ、一理あるな。確かに吾らは不可思議な力を使う。そして稀にわたくしの様に人の子とはとても言えぬ様な力を持つ者もいるという」


 日向の先々代の女王は水と仲が良く故意に水害を起こすこともあったのだと先代の女王から聞いた、と日向は続けた。この国はその人以上の不可思議な力を持つ女王の代に繁栄を見せてきた国であった。然し残念な事に日向の後継者もその後継者となるであろう眞火も火を操ったり、水を操る等という力は持ち合わせていなかった。大きくなった祖国をただの巫女たる二人が継いでいけるのだろうか。日向は不安になる。


「私は卑弥呼様の様な力を持ちません。卜占も下手ですし、女王候補という肩書きも恐ろしくてなりません」
「然し受け継いで行かねばならぬ。人が子を産み親となり次の代を作るのと同じ様に」
「卑弥呼様が不死鳥ならばよいのに、とさえ思うのです」


 不死鳥、と突飛な発想の眞火の言葉に日向は復唱した。
それは死んでは焔の中より蘇るという遠い異国の鳥である。美しい羽を持ち流す涙は癒しの力を持つ。自分と酷く似ているなと日向は笑う。然し日向には、日向の瞳には幼少の頃と同じ様に先が視えていた。自分が死んでいく様、意識の無くなるその瞬間まで。


「わたくしは蘇る事は出来ないよ」


 日向の言葉に眞火は「ええ偉大なる女王陛下も人の子ですもの。それに蘇って仕舞っては常世の神が黙ってはいないでしょう」と続けた。


「人は終わりがあるから輝くのでしょうね」


 遠くを見ながら言う眞火の姿に日向は昔の自分を見た様な気になる。日向の脳裏に浮かぶのは自分の死に際意識が途切れる瞬間に見た眞火の泣き顔である。
弟よりも近く、姉のように慕う眞火を置いて逝くのは苦しい、と思うがただ最期に眞火にだけは言付けようと日向は心中で呟いた。


(わたくしは、わたくしは焔の中で蘇りましょう)

 

 

 


(了)





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