.
処女生殖

(処女生殖)
被験体Aは愛煙家だったが被験体Bは快楽殺人者の人格が新しく派生した。ちなみに煙草は吸わないらしい。被験体Aの知人や恋人(勿論彼等も被験体だ)を殺してしまった被験体Bは被験体Aの干渉を嫌った。被験体Aは被験体Bの親である。YY染色体が全く同じYY染色体を生み出す。これはミドリムシやゾウリムシ、アメーバの細胞分裂とはまた違う。限りなく似ているが違うのだ。これは高貴な処女生殖と呼ばれる。細胞分裂なんて陳腐なネーミングはこの技術に相応しくないと考えた。まあ中身は同じようなものだが。もともと被験体Aしか居なかったこの部屋(檻)にいつの間にか被験体Bが存在したのだ。私は驚きと喜びが混じり合う感覚に胸時めかせながらテープを巻き戻してみた、被験体Aの胸からボコボコと肉が沸き出て別個体が現れた。寝ている間に増えたようだ。つまり無意識に。

モニターの向こうでは被験体Aがマイルドセブンを吸っている。

「なんでこっちみんの?」
被験体Bは被験体Aに言った。…………いや、黒目は私を見ている。カメラに向かって言っているのだ。
そろそろ檻を分ける時か。
クローン技術は発展途上。全く同じ者を作るのは容易ではないようだ。鼻腔を掠めたマイルドセブンの匂い。換気扇のスイッチを入れに監視席を外す。私は副流煙が嫌いだ。ついでに被験体Bを別の檻に移そう、オリジナルである被験体Aが壊れてしまう前に。

鍵を掴んだ監視員が監視室を出ていく。自動扉が閉まった音が小さく響く。


「…次はアンタ?」


被験体Bが被験体Aを殺した。そして天井付近に取り付けられていた監視カメラに向かって言った。
微光が差し、ドアが開く音に男はギョロリと目玉を動かし口角深く笑った。





---------------
微光の続き。
鼻腔と微光。




[前へ] [次へ]
[このブログを購読する]

-エムブロ-