私が、私自身の存在、言うなれば立ち位置に気づいたの中学生の頃だった。
幼い頃から見えてはいけないものが見えていた私は、両親からも周りからも薄気味悪い子として認識されていた。
その為、心暖まるような家族の思い出も、うきうきするような友人との思い出も無く。
私の中にあるのは家族からの罵詈雑言とクラスメートからの冷たい視線といじめの記憶だけだった。
そんなある日、冬の寒い中私はいつものいじめの一貫として一人体育館の倉庫に閉じ込められた。長袖とは言え防寒具としては心許ない装備にどれだけ体を縮こませても意味はなく体は凍えるばかりで、凍死なんて事はないにしろ理不尽なまでの異端を排除しようとするその行為に苛立ちと絶望を感じ目を閉じたとき
私は私という存在を思い出した。
正確には、前世の私が認識した桜井千代というキャラクターを思い出し、そしてそれが今の私だと思い出したとき。
私自身がたどる道に恐怖を感じたのが最後、何があっても魔法律という道には進むまいと決めた。そうすれば、王子様には会えないにしても私は方舟に出会うこともなく、彼女と同じ道を辿らないだろうと思ったからなのだけど
その代わりなのか、私にはそれから今まで孤独が付きまとうようになった
そして、とうとう道を辿らない私に誰かがしびれを切らしたのか、ある朝私の背後に女帝ミミ様が現れたとき、桜井千代というキャラクターの物語は大きく変わった。
少しずつ確実に心を蝕む孤独と、いきなり現れたミミ様に追い詰められた私の精神はとても脆かったのであろういきなり、スタンド使いだとか言って私をさらった男により連れ去られた建物でであったその男の言葉は酷く甘く甘く
「一人は、嫌」
心の奥に押し込めていた言葉がぽろりと口からこぼれたとき、頭の片隅でパンジーの花が小さく揺れた
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その子は旅の中で泊まったホテルの従業員だった。
真っ黒な髪とくりくりとした真っ黒な目を持つ彼女は、ホテルに入った僕たちの案内をしてくれた子で、久しぶりに見る日系の子だったからか印象的だった。
その子が目の前で泣いている。
楽しそうに鼻唄を歌いながら、まるで演奏するかのように指を動かす彼女に釣られるように動く人達に彼女の能力が何であるかは想像がついた。しかし、それに気づいたときにはもう遅く僕たちは彼女に、彼女に操られていた人達に触れた後で、自由のきかない体に、スタンドに危機感を感じたときだった。
「ああ、これで、私はやっとパンジャじゃ無くなれる!!!!DIO様と、王子様と、一緒に居られ、る?」
嬉しそうに笑っていた彼女の言葉が止まる
正直今まで彼女の言葉は良く分からない所があった、しかし、DIOをどれだけ称えようとも王子様と言ったのは初めてでは無いか
いったい何が、そう思って彼女を見ても彼女はスタンドをそのままに頭を抱えて目を見開き、小さく、あれ?王子様?違うと呟くのみで
その声はどんどん大きくなる
「私の王子さまはDIO様
私はあの桜井千代じゃない、私はパンジャじゃない、私は私は違う違う違う、DIO様は私を認めてくれる、一人にしない、一人は嫌、嫌、嫌、助けて、助けて、助けて、ミミ様ミミ様ミミ様」
なにかを打ち消すように頭をふり、泣き出す彼女の声はまるで叫ぶように辺りに響く
意識があろうとも口を動かすこともままならない
「もう、パンジーは、嫌なの
私を、今度こそ救いだして、王子様」
ロージ君
ポツリと小さく呟かれたそれを最後に彼女の体が地に崩れる
それによりスタンドは消え、自由になったその体で彼女に駆け寄れば彼女の目からぽろりと大きな涙がこぼれた