SsSの処方箋


Rudbeckia
2014.11.16 02:54



*Lady"Alice"



「――アリスちゃぁんっ!」



師匠への挨拶も済ませ、いざデスクへ帰ろうとしていた矢先、会議室から出てきた女が艶っぽいハスキーボイスを響かせて駆けてきた。



「ゲッ、春日!」



出たな、性格歪んだレズ。
黙っていれば世の男が平伏す容姿を持った友人が相好を崩して抱き付いてくる。相変わらず羨ましい身長してやがる。



「久し振り、アリスー」

「アリスって言うんじゃねぇよ」

「お帰り〜、いつ日本に帰って来たの?」



聞いちゃいねぇ。
注意したところで無視されるだろうから、グッと堪える。



「ついさっき。そっちは変わりあんのかよ」

「んー?特に何もー」



人差し指を頬に当て、媚びたポーズで首を傾いだ彼女の後ろで、会議室の扉が再び開いた。



中から出てきたのは白衣姿の若めの女だ。見覚えのない顔だし多分、科捜研の人間だろう。俺の顔を見るなり、慌てて頭を下げた。



「あ…っ、ふ、福井次長…っ、…お疲れ様ですっ」

「あ、あー……どうも」

「美也子ちゃん、もう大丈夫?」



春日が俺の頭に顎を乗せ、人の頭越しに話し掛ける。重い。



「う、うんっ。ありがと、春日さん!」

「また連絡してね。愚痴ぐらい、いくらでも聞いてあげるから♪」



ヒラリと手を振ると、『美也子ちゃん』は熱っぽい視線で春日に頷き、再度俺に頭を下げて廊下の先へと足早に消えていった。



読めた。それだけで読めた。



「……会議室でナニしてんだ、テメーはよ」



頭上に向かって呆れ声を放つと、春日が白々しくすっとぼける。



「えー?相談に乗ってあげてただけだよー」

「まだあんなに若い娘がお前の毒牙に掛かったか……」

「彼氏が浮気してたんだってー。で、喧嘩してHの相性がよくないって言われたみたいだから、感度を上げてあげたのだ♪」

「段階すっ飛ばしてそこに行き着くお前の思考回路どうなってんだよ」

「まあまあ。でもいざ触れて見ると美也子ちゃんってば感度良好なワケ。ありゃ彼氏が下手くそなだけだね。別れちゃえばいいのに」

「お前と寝たら大抵の女は戻れねーだろ」

「戻らない娘もいるじゃん」



ウリウリと人差し指が俺の頬をつつくのが鬱陶しくて、手で払い除ける。



「それよかアリス、あっちで暴れまくったらしいね。俺も見たかったなー、アリスの美しき剣舞♪」

「大したことしてねぇよ。『銃さえありゃ無敵』みたいな面した奴等を軽く諫めただけだ。味わいたけりゃ身を持って教えてやろうか?」



肩を押して身体を離す。背負った竹刀を撫でて見せ、自信満々に威嚇したつもりだったのだが、彼女は自分の両頬を包み、恍惚の笑みを浮かべて食い気味に言った。



「――是非!!」

「お前のそういうとこホント嫌い」

「俺はアリスのそういうとこ大好き!」



ネジの飛んだ友人がとても面倒臭いです冬。俺は何でこんなのと友人やってんだろ。



「そういや宮地は?外出てんの?」

「絶賛単独行動中。アイツこそ相変わらず仕事の鬼なんだから。でも丁度良かった、今晩宮地と飲むんだー、アリスもおいでよ」

「どこで飲むん?」

「俺の家」

「行かない」

「ええーっ!?据え膳食わないの!?信じらんないっ」

「いい。そんな腹壊しそうな据え膳いらない」

「やだやだやだぁ、飲もうよ、アリスちゃーん」



再度、春日が抱き付いて、猫なで声を上げる。こんな図体のデカい駄々っ子がいて堪るか。



「お前な、いい加減…に、っ?」



脳天チョップをかます前に、身体がフワリと持ち上がった。文字通り、地面から。



「往来で何してるアル」

「劉!」



背後から上がったのは部下兼恋人の劉偉の声だった。春日から引き剥がすために、わざわざ抱き上げたらしい。そのまま降ろしてくれればいいものを、劉は軽々と俺を肩に乗せた。お前も往来で何させとるんじゃ。



「あららー、ロリコン劉ちゃん、お久しー。今夜、お宅のアリスちゃん貸してよ」

「もう騙されないアル。氷室に教わった情報によると、福井は合法ロリだから犯罪にはならないアル!!」

「劉ぅぅぅっ!!!?」



とんでもない爆弾が降ってきた。誰が合法ロリだ、誰が。そんな勝ち誇った顔するんじゃねぇ。



「あっははは!!やるねぇ、氷室ちゃん。あの娘のイカれっぷり好きだわー」

「うるせぇぇっ、笑ってんじゃねぇっ!」

「福井は渡さないアル」

「どうせアッチに滞在中の時だって、ちょいちょいヤってたんだろー?ちょっとは先輩に譲ろうとかないワケー?」

「断るアル。春日を調子づかせるなって宮地が言ってたアル」



ふん、と鼻を鳴らした劉は俺を担いだままズカズカ歩き出した。だから降ろせってば。



「ちぇー、残念。今日は諦めとくけど、次はおいでよ、福井♪」



にんまりと微笑んだ春日が担がれた俺に向かって優雅に手を振った。蛇女め、と内心で毒吐いたつもりだったが、心の中を読んだように春日が熱っぽい吐息を溢した。



俺の友人は哀しいほどに変態なのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


春日さんWW


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