一日一話


はじめまして
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赤いのは寒さの所為に決まってる
2010/10/22 22:09


(バングラ)


日曜日はかならず昼まで寝るというのが俺の最高の贅沢で、それを妨げてはならないという暗黙のルールがある。
特に冬の寒い日にだらだらと暖かい布団で寝ているのが大好きだ。
そういやグランにまるでくまさんだねって笑われたっけ。
俺は布団の中で寝返りをうつ。
もう一眠りしようと考えるのをやめるが、頬にあたる冷たいなにかで目が覚める。
「つめて…なにしやがる!」
「あ、おきたおきた。くまさん今日は雪だよ、皆で雪合戦やるんだから早く着替えて」
有ろう事かグランは布団を剥ぎ取ると俺のパジャマに手を伸ばして脱がせようとしてくる。
「やめろなにやってんだアンタ!今日俺は昼まで寝て起きたらゲームをやるんだ、だいたい子供じゃねーし雪合戦なんてやらねぇよ」
脱がせようとするグランの手を掴んで離させる。
「晴矢は子供じゃないか、姉さんも晴矢がいないと心配するよ」
ああ、そういう事か。
こいつは大好きな姉さんが心配で俺を呼びにきたんだ。
グランは俺の事なんてなんとも思ってないのはわかっているが、それなのにどこか期待してしまうのは俺が子供だからなのかもしれない。
グランに剥ぎ取られた布団を被って寝る体勢にはいる。
「…行かないの?」
「寝る、ひと姉には具合悪いとか言っとけよ」
わかったと言ってグランは小さくため息をつく。
「わかったらさっさと行けよ、寝にくい」
「ああ、ごめんね」
グランがよいしょっと声を上げるとベッドのスプリングが軋む。
「……なにしてんだアンタ」
「なにって寝る準備だけど?」
俺の布団に入ってくるグランに意味が分からず起き上がる。
「狭い、無理、って入ってくんなよ!」
無理矢理布団に入ってくるグランに動揺が隠せない。
「さむいんだからいいでしょ、あー…やっぱり晴矢あったかい」
「普通に無いだろ、つーか自分の部屋で寝ろよ」
グランに奪われた枕を取り返すと目があった。
「枕返してよー…あれ、晴矢なに照れてるの、顔真っ赤だよ」
「…ば、誰が照れるか!寒いからだよ」
あと枕は俺のだ。
「じゃああったくしないと、ほら一緒に寝るよ」
「だーかーらー…誰がアンタとなんか寝るか!」



赤いのは寒さの所為に決まってる



(ガゼルさんが様子見)
私と晴矢の部屋の扉を開く。
「ヒロト、晴矢は起きた…か」
ぐちゃぐちゃになった布団で晴矢とヒロトが眠っていた。
「ヒロトめ、ミイラ取りがミイラになったな」
安らかに眠る二人の首に雪合戦で冷えきった手をそっと押し当てる。
お日様園に二人の悲鳴が響き渡った。


..♪


不愉快だなんてこれじゃ自惚れだ
2010/10/18 02:15


(円風)



「なあ風丸、俺冬っぺに告白されたみたいなんだ」
帰り道、円堂は相談したい事があると俺をいつもの場所に呼び出した。
秋も終わりがけのこの季節は少し肌寒い。
「みたいって…告白だったんじゃないのか?」
稲妻町が夕日でオレンジ色に照らされるのをぼんやりと見つめながら、円堂に話し掛ける。
「それが好きっては言われたけど俺そういうのよくわかんなくて…適当にはぐらかしてきちゃったんだよな」
「円堂…それ久遠にちゃんと謝った方がいいと思うぞ」
円堂を好きになる女の子は本当に可哀相だと思う。自分に対する好意に鈍いくせに引き付けるから、円堂のそういう所が憎くて、大好きだ。
「うん、そうだよな…冬っぺの事は好きだけど恋人とかそういう関係にはなれない気がする。明日冬っぺに謝りに行くよ」
「ああ、円堂がその気じゃないならちゃんとそう言った方がいい」
久遠には申し訳ないけど、俺だって円堂が好きだ。だけど俺は円堂とは恋人には慣れないから、男友達という立場を利用して君達の恋を邪魔してしまっているかもしれない。
「なんかこういう話風丸にするのって恥ずかしいな…風丸は告白されたりしないのか?」
「ああ…まあ、それなりに…」
あまり嬉しくないけど、この顔のせいか男にまで数回告白された事がある。
「え…マジで?どんな子?」
「全然知らない子だよ、先輩とか後輩…」
なんとなく言葉がつっかえた。もし円堂に男にも告白されたと告げたら円堂はなんて反応するかな…普通に引くか。
「あのさ…聞いてもいい?」
「ん、なんだ?」
円堂が決心したようにこちらを見る。
「俺…結構前だけど風丸が告白されてるとこ見ちゃって…それで…風丸好きな子いるんだろ?」
「それって俺が男に告白されてたやつだよな、見てたのか…」
ごめんと小さく円堂が呟いた。
断ったのに何度もしつこくしてくる奴がいたから、付き合ってる人がいるとあしらったんだった。
「いや、気にしないでいい…男に告白されたから適当に答えただけだし、付き合ってる人もいないよ」
「そっか…そうだよな」
安心したように円堂は笑う。
「当たり前だろ、なに真に受けてんだ…それに付き合うようになったらお前に一番に紹介するよ」
そんな日が来る事はありはしないけど。
円堂を横目で見ると、少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
「……円堂?」
「…ごめん、腹減ったし帰るわ!ありがとな風丸、また明日!」
そう言って円堂は背中を向けて走っていった。
「…どうしたんだ円堂のやつ…」
やっぱり男に告白された俺が気持ち悪かったかな…円堂なら明日には忘れてそうだけど。
俺は日が沈むのを見届けようと、しばらくその場に佇んでいた。



不愉快だなんてこれじゃ自惚れだ



鉄塔を抜けた道まで走って、俺は息を整える。
風丸の前から逃げるように走ってきた。
嫌だった。
風丸が男に告白されて、風丸には好きな人がいて、恋人が出来たら俺に一番に紹介される事。
気持ち悪いとかじゃなくて、風丸が誰かに取られちゃうような錯覚。
嫌だ、嫌だ嫌だ。風丸が誰かと付き合うのも、恋人を紹介されるのも嫌だ。
「そっか…俺、風丸の事…」
好きなんだ、だから嫌なんだ。風丸が誰かに取られるのが。
でも風丸は物なんかじゃないから取られるなんて考えはおかしいし、俺のものでもない。
それなのにこんなにも不愉快だなんて、これじゃただの自惚れだ。
俺は唇を噛み締める。
明日風丸に謝ろう、そして許してくれたら…俺の気持ちを素直に伝えてみよう。
俺は暗くなった夜道を歩き始める。


..♪


冷たい手で繋がる
2010/10/17 02:12


(一土)



「なあ土門、手繋ごうか」
「……は?」
両手を制服のポケットにつっこんだまま一之瀬を見る。
学校の帰り道になにを突然言い出すかと思えば、野郎二人で手を繋いで帰るってどういう心理が働いたらそうなるのか。
一之瀬は楽しそうにねえまだ?とか聞いてくる。
「あー…一之瀬?寒すぎておかしくなったのか?俺のマフラー貸してやろうか」
「マフラーじゃなくて土門の手出してよ、寒いだろ」
だから、手繋いでたら出してる手が寒いし絵図的にも寒いんだって。
「早く手出して、ほら!あったかい」
「うわ!お前手つめたい!」
一之瀬に強引に右手を握られて、振りほどくのもなんだが面倒だったので好きにさせる事にした。
「帰りどっか寄る?」
「コンビニであったかい物が買いたいかな」
冷たい風に曝された俺の手はどんどん冷たくなっていく。
「土門の手も冷たくなってきたね」
「…そういえば一之瀬手袋持ってなかったか?」
コンビニに向かっている途中で思い出した。
「ん?」
「手袋、朝つけてたじゃないか」
身長差があるので一之瀬は俺を見上げると首を傾げる。
「ああ、鞄に入ってるよ」
「いや、おかしいだろう…寒いなら手袋しろよ。お前手すごい冷たいぞ」
握られた一之瀬の左手があまりにも冷たくて、俺はなんだか不安になった。
「俺冷え症みたいでさ、だから土門の手であっためてよ」
「無茶言うなよ、俺だってそんなに体温高くないんだぞ」
手を繋ぐなんて、昔アメリカにいた時以来だ。
俺達はまだ小さくて、いつだって俺の前を歩く一之瀬を追い掛けていた。
一之瀬はたまに振り返って俺に手を伸ばしてくれたんだっけ。
「久しぶりだな…こうやって手繋いで歩くの」
「…一之瀬が俺達の前から消えて以来だな」
本当はずっと心残りだった。大好きな一之瀬が仔犬を助けるために死んでしまった事が。
車に轢かれて動かない一之瀬を目の前にして、俺は動けなかった。
一之瀬に駆け寄って泣きながら呼び掛ける秋をぼんやり見つめていた。
「あの時は色々思う事があったよ、大好きなサッカーを出来なくなる事とか土門と馬鹿騒ぎ出来なくなる事、でも一番辛かったのは皆に忘れられるんじゃないかって事だった」
握られた一之瀬の手に力が入る。
「轢かれた時の出血でどんどん身体が冷えていったのを覚えてる。それから身体が冷えると不安になるんだ、俺死んじゃうのかなって…だから俺土門と手繋いでたいんだ。そうしたら俺はもう一人じゃないって感じられるから」
そんな事言われたら次に手を繋ぐの断れないじゃないか…とはいえ本当は一之瀬と手繋ぐのが嫌な訳じゃなくて世間の目が気になるだけだ。
「まあ一之瀬がしたいなら俺はいつでもいいぜ」
「なにその誘い文句…OK、じゃあ今夜は土門のベッドでしようか」
間違った思考ではしゃぐ一之瀬に俺は苦笑いを浮かべた。



冷たい手で繋がる


..♪


彼が犬で私が猫
2010/10/15 18:31


(ロコエド)



それはよくある例え話。
「エドガーって猫みたいだよね」
私の髪に触れる彼の手はどこかぎこちない。
私の髪は全体的に細い髪質でそれを長く伸ばしているのでコンディショナーには気を使っている。そこら辺の女子には負けない自信がある。
そんな私の髪とは相反する髪の彼は触った事のない感覚に戸惑っているようだ。
「ロココは髪を固めているんですよね」
「特には気にしてないんだけど伸びてるから」
後ろから頬に沿って伸びる髪を指で撫でる。
少しだけ固い髪は犬の毛を連想させる。
「私が猫ならロココは犬ですよね」
「それって僕の方が強いって事でいいの?」
ロココはそう言って意地悪そうな顔をした。
先程私の髪を撫でていた時は無邪気な子供のような顔をしていたのに。
でもそんな時折見せる彼のその顔が好きだった。
「そういうつもりで言った訳ではありません」
怒ったように見せれば彼はごめんごめんとあやすように抱きしめられる。
身長は差ほど変わらないが、体格差は歴然だった。
FWとしてしか鍛えていない私とは異なり、彼はGKとFWを両立出来るだけの練習をしている。
憧れの選手の影響を受けてサッカーを始めた彼だが、師匠と呼ぶ監督の特訓によりGKで才能を伸ばしたという。
「エドガー?」
心配そうに眉を下げるロココの頬を軽くつねる。
「お仕置きです」
「えー、僕なんにもわるくないのに!」
仕返しだよとソファーに押し倒される。
「ロココ」
「うん」
どちらともなく口づけると頬を舐められた。
「…なんで舐めるんですか」
「だってエドガーが犬だっていうから」



彼が犬で私が猫


..♪


・・・






2010年10月




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