手短に青唯が見つかったことを伝えて電話を切った。
誠が泣き出しそうな声をしていても、今はどうにも思えない。

公園のベンチでジュースを買って飲ませた所まではよかったが、かっこつけて足元をふらつかせていたちびっこを背負おうと思った自分に少し後悔している。いつの間にこんなに重くなったんだ。

まだその元気があるという望みをたくして、家を出てからの経緯を聞きだすことにした。誠も久々にあれだけ物投げまくって疲れてるだろうし、それくらいはしておかなきゃいけないと思って。

青唯が話すには、学区の端の公園でどうしようか考えていたらしい。
そうしようと気付いたのは、砂場で遊び始めてしばらくしてからだとも。そしてその後、女性と喋ったと。


「誰だよアキヒって」


声を出すと、卵一個分くらい荷物が重くなった気もする。
小学生とはいえ歩ける距離で探そうと思ったのが間違いだったのか。家まではもう少しあるし、バス通りもここからは遠い。
それでも遠くまでは行ってないってカンは当たったのには助かった。


「まさとの、友だちの、おねえちゃん」


女性の名前には聞き覚えがなかった。
恋人に弟がいるのは勿論知っているがその交友関係まではさすがに踏み込んでない。
青唯はさも知っているように話すものだから、こいつの頭はどことどこが繋がっているのか心配になった。

しかし、もう少しこう、背筋を伸ばしてはくれないだろうか。
背骨だけ猫なんじゃないかというくらい、しなやかに背中にひっついてくる。
誠も疲れて、青唯も疲れてて、三人揃う頃にオレが一足遅れてクタクタってか。


「ったく心配しただろ」
「おれはいいの!ひなはまことをしんぱいしなさい」


さっきまでのウトウトした調子が嘘みたいに、青唯はコロッと声色を変えた。
言い終えてから、ちょっとやばかった、と思ったけど時すでに遅し。

オレの肩から降ろされていた腕は突然後方に戻されて、少し上の方でごそごそ動いた。
むせび泣く声がとても近くで聞こえる。こんな距離で泣かれるのはさすがに初めてだと思う。

このまま背負って歩いていては息を詰まらせてしまうかもしれない。
一声かけてゆっくりと青唯を降ろして振り返ると、案の定というよりは思いのほかという程、彼は泣いていた。さっきジュース飲ませたから、水気は充分にあるんだろう。


「泣くなよ、男だろ」


こんな所で頭を撫でても意味はないと分かっておきながら何もしないのは癪だからと手を伸ばした。
閑静な場所とはいえ誰も通らないというわけではないし、さっきのオバサンのチラ見も結構ヒヤリとした。
涙を手の甲で拭うのに必死だった青唯は、撫でられると気づいた途端にその手を振り払う。

これもきっと、意味なんてない。テレビでも最近やらないんじゃないかという流れ。
それでも憧れてしまう動き。無意識や本能といわれるレベルはどこからどこまでだ?

当たり所が悪かったらしく手のひらが少しヒリリと痛んで、手を振る。これは無意識。
はっとして、口元をわなわな震わせて更に目に涙が溜まる青唯。これもきっと本能。


「ひなとまことがいなきゃ、やー!」


子どもの本心でないと叫べないような言葉が、なかなか家に近づけないオレのわがままを削りだす。



『わがままを許さないで』
たとえば僕が
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