檻の中で愛でる
†高校生仁王夢 年上夢主
12/09/23 23:48
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別に家族が嫌いな訳じゃない。
愛されてるし、守られている。大切にされてるのも分かってる。でも何故か居心地が悪くて、訳もなく荷物を纏めて夜の街に飛び出した。そんな時の話し。
衝動的に飛び出したもんだから、行く宛なんてのは勿論無くて、兎に角人通りの少ない道をフラフラとさ迷っていた。ネカフェは年齢の関係で泊まれないだろうし、最悪どこかで野宿か何て考えが浮かんでその場に座り込んで上を見上げた。星のない真っ暗な空に、ポツンと輝いた白い満月がどこか自分と重なって、情けなくも寂しくなる。
どれくらい上を見上げていたか、不意に足音が聞こえてきて、それが目の前まで来てで止まった。

「何してんの?」

高すぎず低すぎない中性的な声の主の顔は逆光で見えないけれど、余り高くはない背丈と、若干丸みを帯びた体つきから女だと分かり、応える事を躊躇する。
すると女は溜め息をつき、しゃがみこんで顔を近付けてきた。
コバルトブルーの瞳に、一瞬息をするのを忘れる程見入ってしまう。

「意識はあんのね…
もっかい聞くけど、何してんの?」
「何も…」

女は俺から目を反らさずに問いかける。
俺は何故かそれが心地悪くて顔を反らした。

「ふぅん…」

素っ気なく返された言葉が突き刺さる。
見ず知らずの相手なのに、それが無性に怖くて、俺は口を開く。

「………家出しただけじゃ」
「家出して行くとこなくなった訳か」

俺の一言で理解した彼女は、くつくつと可笑しそうに喉を震わせている。俺はこのまま彼女と離れるのが嫌で、一人になりたくなくて、すがるように反らしていた顔を彼女に向けた。

「のぉ…」
「泊めてくれって言いたいんでしょ?」

言いかけた言葉は彼女に浚われ、仕方なく口を閉じてジッと彼女の目を見つめる。ビー玉みたいな目が、俺の心まで見透かす様に細められ、一度瞬きしてから彼女が立ち上がった。
俺はまだ座り込んだまま、彼女の動作を目で追う。

「………」
「……おいで」

二、三歩前に進んだと思えば、顔だけ此方に振り向いて声をかけてくれた彼女に素直に頷き、荷物を担いでその後に続いた。オートロックを解除して、広いエントランスを抜けてエレベーターに乗り込み、十階まであるボタンの十階を押して上へと上がる。
明るい光の下で見る彼女の顔は中々奇抜、と言うか、ピアスの量が多くて少し驚いた。少しキツイ印象を与えるメイクも相俟ってか、日中に出会ったならばその出で立ちに圧倒されそうだ。
ピンッと到着の合図が鳴り、エレベーターのドアが開くとすぐ目の前には一面が(本当に床や壁、天井からドアに至る全ての面が)真っ暗なフロアが広がっていた。

「(変わったマンションじゃ…)」

エレベーターの向かいに一つだけある扉に、扉と同じ黒い板状の鍵を差し込む様子を、特に何も考えずに眺めていると、ガチャりと音がして扉が開く。
うっすらと青白い照明の付けられた室内は、フロアと同じく黒で統一されていて、最早何の感想も浮かばない。

「上がんな」
「……お邪魔するナリ」

彼女に促され、足を踏入れて戸締まりをすると、スタスタと真っ直ぐに伸びた廊下を進んでいく彼女の後に続く。

「取り敢えず荷物は此方の部屋置いておきな」
「ん…」

通されたのは玄関に一番近い部屋で、普段は使って居ないのかクローゼットと壁に据え付けられた机と椅子のみが置いてある岳の部屋だが、掃除は行き届いているらしく埃一つない。
俺はドアの側に荷物を置き、また廊下に戻る。
彼女は玄関の真正面、家の一番奥の扉を開け、リビングへと入っていったらしい。開けっ放しにしてあるその扉の向こうから何やら食器を扱う音が聞こえた。

「荷物置いてきたナリ」
「なら適当に座ってな
今飲み物用意してるから」

彼女の言葉に甘え、部屋の中央に置かれたソファーに座る。
目の前の硝子テーブルの上に置かれたタバコと灰皿を見て、視線を彼女に向ける。成人していると言われればそう見えるが、していないと言われればそうも見える、タバコを吸っているのなら成人はしているのだろうか…。

「コーヒーしかなくて悪いけど」
「有り難く貰うぜよ」
「ミルクと砂糖は好きに入れな」
「おねーさんは?」
「ブラック派」

受け取ったカップにミルクと砂糖を一杯ずつ入れ、少し冷ましながらゆっくりと口を付ける。熱めのコーヒーが、夜風で冷えた体を温めてくれた。

「んで?
君、名前は?」
「仁王雅治じゃ
まーくんでよかよ」
「仁王ね
私は黄金井瑠璃」
「瑠璃ちゃんじゃな」

瑠璃ちゃんと呼ぶと、彼女は何だかばつの悪そうな顔をしてちゃん付けは気持ち悪いから止めろと言われて仕方なく瑠璃さんに改める。それから軽くお互いの自己紹介も兼ねて話をした。

「高3って事は2つ下か…
見えないわね」
「瑠璃さんは大学生なんか?」
「一応二回生よ」
「ならまだ19?」
「4月生まれだからもう二十歳よ
だからタバコもお酒も大丈夫」
「そうじゃったか」

こんな感じで色々と話を続け、気がつけば日付は変わっていて、俺は瑠璃さんに布団を出して貰って眠りについた。
これが、俺たちの始まり。



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