急に、そんな目で見つめないで。
【距離】
久しぶりに会った彼は、
懐かしさこそ溢れたものの、
昔に覚えた恋心は、
違う人に向けられたことで、
沸き上がってくることはなかった。
そんな事実に安心する。
おかげで彼と過ごすのはとても、
居心地が良かった。
だから、油断した。
少し、近くに置かれた手に。
その手が気になって、
思わず彼を見て、
心臓が跳ねた。
そんな自分をごまかしたくて、
思わず口を開く。
あ――……!
そのとき、
ほんの少し、
彼が手に触れた。
彼が、どんなつもりで触れたのかはわからない。
彼が触れたのは本当にほんの少しで、
手を引いたあとは、何もなかったように話を続けた。
何もなかった。
何もなかった。
そう思い込んで、私も話を続ける。
でも、離れない。
あの真っ直ぐな目も、
あの一瞬触れた手のぬくもりも。
なんで、あんなこと。
動揺した。
それだけ、それだけだった。
思い込んだ。