話題:妄想を語ろう


結局、今年も(参加できる)夏らしいイベントは全くなかった。このまま夏の風情を感じる事もなく季節は終わってしまうのか……などと思っていたところ、なんでも近くの空き地に夏季限定の[お化け屋敷]があるというので、ちょっくら行ってみる事にした。

入場口の立て看板にはこんな貼り紙が。

【ただのお化け屋敷じゃない!さまざまな夏の風物をギュギュッと凝縮した他にはないスペシウムなお化け屋敷。夏のすべてが味わえる。もちろんコ○ナ対策も万全!夏季限定】

ほほう。こいつは良さそうだ。海水浴場もプールは閉場、盆踊りは中止、七夕祭りも中止、棚ボタ祭りも中止―というかそんな祭りは元々ない―花火大会も中止。夏気分を味わえるなら少しぐらいショボくても文句は云えない。私は入場料の1500円を払って中に入った。ちなみに、スペシウムはスペシャルの間違いだろう。

が、入ってすぐに猛烈な悪い予感に襲われた。やたらとあちこちの壁に妖怪アマビエの姿絵が貼ってあるのだ。まさか万全のコ○ナ対策って…と一瞬焦るも、勿論そんな事はなかった…なかったのは良いのだが、換気の為に、あちこちの窓(天窓含め)が開けっ放しになっており、そこから射し込む陽光の暖かな明るさが怖さを半減させている。

墓場ゾーンの顔中血だらけのおどろおどろしいメイクをした幽霊も、ソーシャルディスタンスを守ってか、かなり離れた場所からちらっと顔を覗かせるだけでち少しも怖くない。せめて「恨めしや」ぐらいは言って欲しいものだが、やはり、マスクなしでの会話はなるべく控えて、というアレだろうか。いや、そもそも流れているBGMがサザンオールスターズという時点でちっとも怖くないのではあるが。

更に少し進んだ所に【31アイスクリーム】の出店を見つけた時は、さすがに開いた口がふさがらなかった。売り子の扮装は雪女で、怖いというよりは下手くそなジョークである。

その先は荒れた草地のなかに朽ちかけた廃寺がポツンと建っており、これはなかなか不気味だった。しかも、此処だけはしっかりと暗い。そうそう。これが本来のお化け屋敷の姿だろう。お堂の扉にはベタベタと無数の御札が貼られている。ますます良い感じだ。私は怖々お堂に近づいた。御札にはこう書かれていた……

【冷やし中華始めました!!】

他の御札も、【サンマーメン】、【カニチャーハン】、【麻婆豆腐】、【ホッピー】等々。そして、お堂の扉を開けると、「いらっしゃいませ!」の掛け声が。

……単なる町中華じゃないか!此処だけ暗いのは、店内の換気扇のおかげで窓を開けなくても換気出来ているから。しかも、BGMはTUBEに変わっている。先程までの怖さが一瞬で吹き飛んでしまった。

次のゾーンは、仄暗く寂しげな公園だ。片隅にあるブランコが誰も乗っていないのに揺れている。これは少し気味が悪い。更には砂場に何やらモゾモゾと動く白っぽい服を着た集団がある。こ、こ奴らは……

高校球児だ!!

試合に負け、泣きながら甲子園の砂を集める(昭和の)高校球児たちの姿がそこにはあった。一人が立ち上がり、揺れがおさまりかけたブランコを再び揺らす。こ、こ奴らは……

地方予選で早々に負け、さっさとバイトにシフトチェンジした野球部の生徒たちだ!!

夏らしくはあるが怖くはない。おまけに奥の方では皆から隠れるように、エース(で4番で主将)の爽やか少年と気立ての良さそうな女子マネが見つめあっている。マジでキスする5秒前。広〇涼子か!青春の甘酸っぱさ度は満点だが怖さは0点だ。ちなみにBGMは甲子園の試合前に流れる各校の[ふるさと紹介]のメロディー。微塵も怖くない。

それはそうと、どうして女子マネはエースばかりと付き合うのか。たまには、“控えの捕手”とか“いぶし銀の二塁手”、“代打の切り札”と付き合えばよいのにと思う。

その後、ろくろ首や一つ目小僧といった妖怪たちが出没するも、いずれもアクリル板越しだったりマスクをしていたり(口裂け女だけはマスクに違和感がなかった)、怖さを感じないまま出口へと辿り着いてしまった。BGMはビーチボーイズやハワイアン。

ちなみに、入り口と出口にはどこかで見たような老人男性の老人形が仁王門のように二体ずつ立ち並んでいた。はて、これはいったい誰だったか?

出口を抜けた先にアンケート用紙が置いてあり、抽選で百名に[夏のスペシウムギフトセット]が当たるとの事なので、取り合えずヤケクソ気味に『“ある意味”メチャメチャ怖かったです』と書いて応募箱に用紙を落とし込んだ。それと、言う迄まもないとは思うが、スペシウムはスペシャルの間違いだろう。

家に帰ると郵便受けに薄い封筒が入っていた。封を開けると「ご当選おめでとうございます」と書かれた紙切れが。速すぎるだろ!直帰した私より速いってどういう事?むしろ、こちらの方がよっぽど怪奇である。当選商品は数枚のブロマイド。夏八木勲…夏木マリ…夏樹陽子…夏木陽介(以上、敬略)……なるほど、皆名前に「夏」の字が入っている。そして何故か夏木ゆたかさんだけが3枚も入っていた。

あのお化け屋敷、来年も開くのだろうか。もし、やるつもりならば、また行ってみようかな。


(追記)出入り口の蝋人形が誰かを思い出す。尾 身会長であった。



〜おしまひ〜。