話題:名前変換無し夢小説。
菅原くんとなんにも起きないお話です。オチもないです。雰囲気小説を書いてみたかっただけです。
2人は家が近所です←設定
お付き合いいただける方は追記へどうぞ。
「なんか、気持ち悪いかも」
二歩先を歩く色素の薄い髪目掛けてそう言うと、菅原は気の抜けた半ズボンのポケットに手を入れたまま振り返った。アスファルトとサンダルが擦れて音を立てる。
「いきなりだな、大丈夫か?」
調子に乗って飲んだこともない焼酎を飲んだらこのザマだ。だって、余りにも楽しかったから、あの場で拒むなんてできっこなかった。一丁前に大学生をしている私たちに、飲み会を盛り上げるゲームと、その敗者に課される罰ゲームは不可欠だった。正直今までお酒を美味しいと思ったこともないし、まともに飲んだ後のことを考えると未知の世界に他ならなかったから3口飲んで菅原に押し付けた。「もっと飲め」と私に浴びせられた非難を掻っ攫うように、受け取った湯呑みに残ったそれを、菅原は一気に飲み干した。
飲み込むのに合わせて動く彼の喉仏を、私は横で見つめていた。
「もう無理歩けない」
視界が狭くなっていくのを感じて思わずしゃがみこんだ。いつもなら心地よく感じる少し冷たい風すら今は鬱陶しい。いくらか楽になった呼吸をなんとか整えていると、上から声が降ってくる。
「ほら、肩貸すから頑張って歩けー」
「ねえほんとに無理」
「家まであとちょっとだろぉ」
そんなことはわかっている。
でも歩けないのだ。動けないのだ。目玉はグラグラするし、手足は震える。普段なら歩けば5分もかからない家までの道が永遠のように長い。
「菅原、優しくない」
どうにかなってしまっているのは身体だけで、頭は至って正常みたいだ。そのせいで昔から菅原を前にすると何故か棘のあることばかり言ってしまうこの口も、通常運転してしまっている。
「優しくなかったらお前置いてさっさと帰ってるよ……おぶるか?」
「…変態」
「ったく」
だから歩けって言ったんだよ、と小さく呆れた溜息をつかれた。
…
結局菅原の背中にしがみついて徒歩5分の道を辿ることになった。涼しい風が吹くとはいえ、季節はまだまだ夏と呼ぶに相応しい湿っぽさを醸し出している。左手には建ち並ぶ民家の塀、右手にはだだっ広い田んぼ。その真ん中に伸びた道を菅原が歩く。バレーをするには足りないらしい身長は、女の私が乗ればちゃんといつもとはまるっきり違う目線になる。張った肩は筋肉の熱を蓄えているし、背中だって真っ直ぐ硬いせいで良くも悪くも柔らかい私の身体がぴったりと沿う。目の前の逞しいうなじにはじっとりと汗が滲んでいる。無骨なそれに胸の奥がぎゅっと掴まれて痛いくらいで、どうしようもない。たまらなくて首に巻きつけた腕を組み直して身じろいだ。
「ん、どうした気持ち悪いか?」
「ううん…大丈夫」
甘えたくなっただけという本音は口に出せない決まりになっている。なぜなら私は菅原の大事な人ではない。高校を卒業して恋人ができたという噂も聞いた。聞きたくもないような、知りたいようなその話の詳細は、今でも菅原と親密にしているらしい澤村に聞けば大して苦労もせずに知ることができた。
「お前さ、彼氏とか大丈夫なの?男におぶられたりして」
「彼氏なんていないよ」
いもしない彼氏の存在を当たり前のように持ち出してくるのは、私との間に恋愛感情のような生々しいものが流れる可能性を否定したいからか。別々の大学に通う今、こうしてたまに烏野の同期で集まって遊んでも、やっぱりそうなのだ。菅原にとって私は、気の置けない同級生でしかない。一方私はといえば、久しぶりに顔を見れば自然と気持ちが逸るし、相変わらず菅原が好きなのだ。
「彼氏なんて、いない」
もう一度繰り返せば、何を勘違いしたのか菅原は困ったように笑った。
「焦んなくていいよ。お前は良い奴だし、案外女らしいところもちゃんとある」
そうじゃない、と言いたい気持ちは言葉にできない。男の子からの誘いが全くない可哀想な奴だと思われたに違いない。そうじゃない、菅原が好きだから誰の誘いにも乗っていないのに。
「馬鹿」
言いたくても言えない気持ちは結局いつも、この二文字に落ち着く。何度口にしたかわからないけれど、菅原は一度も怒ったことはない。
「またそれかよ。飽きないな、お前も」
飽きないよ、ずっと。
いつか私の勇気が力を蓄えたら、菅原に飽きない私の気持ちを伝えてみたいと思っている。
家までの道はあと少しだ。この背中の暖かさをしっかり覚えておきたくて、菅原の肩を枕に寝たフリを決め込むことにした。私が静かになったことに菅原は気付くだろうか。一緒にいると、こんな些細なことにも好きな気持ちを忍ばせたくなる。
そんな恋をしている。
終
どうしてもこの2人をくっつけられませんでした…
脈ナシかなぁこれ…
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