昔のたんぽぽ


たんぽぽの綿毛を吸い込むと死ぬよ。
子供の頃にこのことを柔らかい言葉に変換してから伝えられた。
柔らかくはあったけれど何度も言われるので、それは正しく子供の耳にも警告として受け入れられて、あまり近づくことはなかった。
理由としては気管支が通常より狭いからというだけのことだけど、この話をまったく自分に興味のない知人が数年後にそういえばたんぽぽ苦手なんだよね?と話しかけてきたことに多少動揺したのを覚えてる。
等しく僕もこの知人に興味がなかったので、なぜそんな他人にとってどうでもいい話を覚えてるのだろうと訝しげに訊いてみると、彼はまるで尋問を受ける容疑者のように顔を伏せて唇を舐めた。
若干の居心地の悪さがその場を支配し始めたので僕は急速に彼の答えへの興味を失い、期間限定の抹茶のメルティーキッスはまだ店にあるのかなあ等と思い浮かべていると、彼は顔を上げた。
そして暇だったから、と言った。
暇だったからよく覚えてたんじゃないかな。たんぽぽ吸い込むと死ぬんでしょ?
彼はひひひと笑う。僕はそんな彼を見て、ふふふと笑った。
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2022 5/20(Fri)
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-エムブロ-