「駄目」

彼女は呻くように呟く。
それはともすれば、聞こえなかったかもしれない程に小さく、僅かに空気を震わせた。

「一体何が駄目だと言うのだね?」
「駄目。駄目なの。貴方が居なくちゃ駄目なの」
ゆっくりと顔を上げた彼女はいきなり私に抱きついてくる。
無防備にもただ座していただけの私は、彼女に押し倒される形となった。

「久秀。貴方がいないと私は駄目になっちゃう」
「これはまた嬉しいことを言ってくれる。しかし私はもはや、卿と共にあるだろう?」
「駄目、足りないの。呼吸がきこえるぐらい近くに居て。拍動がきこえるぐらい、触れていて」

そう言って、彼女は私の首筋に顔をうずめる。
ちり、とした痛みの後、彼女は顔を上げた。
鏡面で確認するまでもない。
きっと私の首筋には彼女の所有印が残っているのだろう。
私は彼女を腕に抱いたまま、体を起こした。
そして、ゆっくりと笑む。


「卿は私のものだ。放しはしない」

その言葉に満足そうに微笑む彼女の首筋に、私と同じ紅い鬱血を残した。





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ヤンデレヒロイン目指してみた…んだけど。