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SSS<追記>




俺の記憶の中のお前はとても純粋で、美しかった。
はらりと雪がちらつく早朝に、だんだん透明になって溶けるがごとく消えてった菊。
中学一年生の頃の唐突な別れだった。
親父さんの転勤なんて信じられない。
突然の別れが受け入れられなくて、幼稚な俺は自分の中の菊を美化することで精神を保ったのだった。

あれから時は滑るように流れ俺はいつしか社会人になっていた。
どこか人事のように過ぎる時間は非情ではあったが俺は一度たりとも菊を忘れたことがない。

何年も何年も何年も年を重ねるごとに俺の中で綺麗になっていく菊。
きめ細やかな柔肌も、スルリと指を通り抜ける黒絹も、ゆらゆらと揺れる真冬の湖のように澄んだ瞳も鮮明に思い描ける。
あれから一度だって彼に会っていないのに成長した菊の姿を克明に脳裏に浮かぶのだ。

いつだって俺の中の菊は、聖母のような優しい瞳で俺を見る。


それなのに。

なんで、どうして、なにが、どうなっている?

こんなの、菊じゃあない。
俺の知っている菊じゃあない。

菊が行ってしまったあと、腑抜けみたいになってしまった俺は大して勉強もしなくなった。
学年トップクラスだった俺の成績は順調に下降を続け、適当な高校に行き、適当な行ける大学を出た。
将来を考える度、菊と一緒に行こうって言っていた進学校を思い出して、俺の進路決定は投げやりなものとなった。

そうして適当に卒業して、なんとか雇ってもらったのが警備員の仕事だった。

ここにきてようやく、このままではまずい、人生を浪費していると思った。
菊のことは忘れられない。
それは事実である。
しかしだからといって空虚な美化された思い出に浸りきって俺の人生を無駄にしてもいいのだろうか。

俺は菊の美しい思い出に蓋をして心の奥にしまうことに決めた。
どうしてもやりきれない時、時々振り返ればいい。
俺がいて、菊がいて、俺が笑えば菊も笑い、俺が泣けば菊も泣いた。
俺にとって完璧で何一つ欠けていなかったあの頃の世界。

それは思い改め社会人生活に踏み切ろうとした矢先のことだった。

若いという理由もあり、なにより時給が日中より3割増しであったから俺は今回から深夜警備に換えてもらった。

配属されたのは近くの私立高校。
金持ち学校だから校内の絵画や銅像など様々な調度品に結構な金が掛かっているそうで、俺は深夜の学校に不審者が入り込まぬよう警備せねばならない。
といってもさすがは金持ち学校といったところか、校内のいたるところに防犯カメラが設置してあり俺の実質的な仕事はモニタールームでその防犯カメラの映像を逐一チェックすることであった。

警備といったってそんな頻繁に不審者が侵入するわけでもない。
忘れ物を取りに来た生徒とか、酔っ払って侵入したおっさんとか、懐かしんで訪れた卒業生だとかそういう奴らの相手が大半だった。

結構多いのは、深夜の学校に残ってセックスをする輩。
あちらは盛り上がって大変よろしいかもしれないが、いちいち注意を促さねばならないこちらの身にもなって欲しい。
別にほっとけばいいのだが、セキュリティー上、適当な窓や出入り口から出られると警報が鳴ってしまうので俺が誘導してやらねばならない。

いつものようにコンビニで購入したおにぎりを食いながらモニターを眺めていると、職員室でもぞりと動く影があった。
…忘れ物か?

画質の荒い画面で白黒の影が動く。

俺は目を凝らしてモニターを見つめ、溜め息をひとつ零した。
その影は明らかに人二人分で、一定間隔でゆらゆら揺れている。
これは一番嫌なパターンだ。
俺はウンザリした気持ちになりながら冷え切った米をペットボトルの紅茶で流し込む。
なにが微糖だ、甘すぎる。

そのまま懐中電灯を掴んで職員室を目指した。

夜の学校は確かに怖い。
ひんやりとした独特の空気を身に纏い昼とは全く別の表情を見せる。
そうはいっても人間の慣れとは怖いもので初めのうちはドキドキしていた俺だったが今は何とも思わなくなった。


重い足を引きずり廊下を歩く。
人の情事にはなるべく関わりたくないがこれも仕事だ仕方あるまい、と職員室の扉を開け、人影を懐中電灯で照らした。
とっとと帰って貰おう、そう思って口を開いた。


しかし俺はその口から言葉を発することも、あまつさえ開いた口を閉じる事もできなかったのだ。


懐中電灯の頼りない光の向こうには菊がいた。

何度も何度も思い描いた俺の想像と寸分違うことなく美しい菊。いや、想像の菊より現実の菊の方が数段、可愛い。

しかし。

俺の脳は視覚からの情報を上手く処理出来なかった、したくなかった。

菊はその形の良い脚をめい一杯広げ、柔らかそうな双丘の奥の秘められるべき場所で男をくわえ込んでいた。

相手はこの学校の生徒のようでブレザーを着ていた。
グレーのスーツを申し訳程度に片足に引っかけ喘いでいる菊は教師なのだろうか。

俺という傍観者を無視してその生徒は追い上げ始めた。

晒される菊の白い喉と小さな唇から溢れ出た唾液。
相手の抽送に合わせて腰をくねらせる菊は凄まじくいやらしい。
視覚に遅れて聴覚が追ってきた。
水音と湿った吐息、そして菊の甘ったるい喘ぎ声。

そんな声知らない。
そんな表情知らない。


「あっあっ、だめぇ…だめぇー!!ひぁ、あン、あぁぁぁあ」

壮絶な色香を纏って達した菊に覆い被さる生徒が呻く。
菊の白い太ももがビクビクと痙攣した。

「…き、く…」

粘ついた喉から漸く零れた言葉はちっぽけだった。

聖母のように笑う彼はどこにいったのだろうか。
俺が空虚に日々を浪費していく間彼はこうして、俺以外の男をくわえ込んでいたのだろうか。

ひどい喪失感とふつふつとした怒り、そしてどうしようもないほどの興奮が俺の心を綯い交ぜにしていた。

「…あー、さぁ…さん?」

漸く俺に向けられた意識が嬉しい。
開かれた黒耀の瞳に映る俺は酷く意地悪な笑みを浮かべていた。





<終?>

エロフラグ立ったまま終わり。お仕置きいいな、お仕置き(^p^)

美化された偶像を愛でていたアーサーは現実の菊を認めたくない。…とかもはやヤンデレではなかろうか。

寝よう。
2011/1/25 01:31 Tue
(0)


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