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遅かった。
僕が気がついた時には、もう。
皮肉にも、本日は晴天。
その澄んだ青を背景に飛び立つ船。
僕はそれに向かって叫んだ。
「神楽ちゃんっ!…」
周りの目線などは厭わない。
ただ、彼女に届かない事実が痛い。
届く訳が無いのだ、僕の声など。
たとえ彼女が地上にいたとしても、だ。
無理だと分かっても走った。
空に浮く船だけを見ながら、つまづいて、人にぶつかって。
止まらなかったのだ、何故か。
もう遅いのに、無駄なのに、
自分の諦めの悪さはとうに見えていた。
船が止まらない事実も、彼女がもう戻ってこない事実も、
僕には受け入れる事などできる筈がない。
船が見えなくなった辺りでようやく立ち止まった。
涙などは流さない。叫ぶことももうしない。
だが、このどうしようもない虚無感だけは払拭できない。できる訳がない。
その場でしゃがみこみ、呼吸を荒くしたままで再び空を見上げる。
空は青かった。
皮肉にも綺麗だ、などと思ってしまった。</span>
何処へ行くの、愛しい人よ
(何処へも行かないで、愛しい人よ)
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