ハーモニーレディースクリニック

2021/07/08 03:12
こういう時代だからこそ・・・ 当院は出生前診断の結果で中絶することに反対します

少しデリケートな話題なので、個人で意見を述べることに躊躇するのですが、今日は出生前診断という結論を出すのが少し難しい問題についてです。

出生前診断は年々進歩し、近年日本でもNIPT(新型出生前診断)が認定施設の増加と共に、より一般的になり、今度は着床前診断の対象疾患が増えるというニュースが流れて、いよいよ身近に通常の診療として定着してきました。

NIPTは母体採血によって、cell free DNAという胎児由来のDNAを次世代シークエンサーによって解析し、頻度の多い先天性染色体異常を対象に検査を行うものです。産婦人科学会が認定していない、いわゆる認定外施設では母体年齢にも関係なく胎児の性別診断やその他の染色体異常や多型という個人レベルの変異まで調べてくれるという時代になっています。 

「当院で検査できますよ〜」と謳っている施設もあったりで、不安に駆られた妊婦さん達が検査に走るという構図になっています。

医学はそもそも「病を治す」ことを前提に検査をし、治療を行うことがメインストリームとしてあるのですが、NIPTは残念ながら現状ほとんどの「正常でないと診断」された胎児は治療をうけることが出来ないまま、8割から9割が中絶されることがわかっています。

私は検査としてのNIPTその他の出生前診断を否定はしません。必要としている人がいるのもわかりますし、現在の福祉の状況から見て、とても産めないと思ってしまう気持ちもわかります。当院でも検査を希望する方には施設をご紹介していますし、クアトロテストという検査を採用してはいます。

けれど、診断された結果、圧倒的多数が中絶される技術は現状はフェアではないと思いますし、遺伝子カウンセリングによって、診断を受けても「大丈夫だよ、生きていける」と思う方が増えてくれれば良いのですが、診断技術にフォロー体制が追いついていないままで事が進んで行くことに違和感を感じています。

そうした中で、あえて、今生きている(診断を受けていれば中絶されたかもしれず、この診断技術を悲しんでいるかもしれない)人のために、これから中絶されようとしている「異常」と診断され消えゆく命のために、また診断を受けて悩んでいるご夫婦のために、小さな声ですが、ここで生きていて良かった、産まれてもいいんだという、応援の意思表示をしておきたいと思います。多死社会となり、大勢が死んでいく、現代だからこそあえて、ひとりつぶやいていたいと思っています。

そして、検査結果を見て中絶することには、個人的には反対の声を上げさせて頂きたいと思います。どんな赤ちゃんにも生きる喜びがあり、家族にも幸せが訪れるでしょうし、負の面ばかり考えてしまいがちですが、そこは私も含めて誰かが支えて、どんな命も尊ばれる社会になって欲しいと願います。

「障害がある」と落ち込むのではなく、「こんなこともできた」と家族で喜んでこれから起こる毎日を楽しみにして欲しいと思っています。「健常」と思っていても、完全なヒトなどどこにもいませんし、皆何かしら不自由を抱えており、その意味ではみんなが同じですよ。皆が互いを思いやっている本当に素晴らしい家族を私は何人も知っています。だから妊娠できたことを、子どもが産まれてくれることを、検査結果にかかわらず、わくわくして欲しいと思います。

染色体異常があっても、たとえ短い命であったとしても、「産まれてきてくれて良かった」とたくさんの人が感じていることをもっと知って欲しいと思います。

妊婦さん1人1人の意志は尊重しますし、ご夫婦で考えた結果選んだ結論に反対するものではありません。


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