パンケーキ


『コースター(カレー)』 3(投稿したやつ)
2022.9.2 23:30
話題:創作小説



「脳だ」
町内の地図を購入した帰りに、縞は突然呟いて、僕は彼女を見上げた。
(くっ。背が高いからだよ……!)
「鼠、牛、鳥、馬、辰、猿でしたよね」
僕は記憶を頼りに思い出す。
「情報によれば、鼠と猿だけはキャラクターなんだ」
「はあ」
「件の中学生の事件も、記事を遡って閲覧したが、どうやらその子は自由研究で脳の研究をしていたらしい」
それが、なにか、いや、もし、その子の死に関係あるなら……
「暗示じゃないかと思って」
そう言って縞はひとつずつあげていった。
「蝸牛……かたつむりだけど、まあ、ぬいぐるみがなかったんだろ。海馬……鳥……は。なんだろ、カラスは記憶力が良いらしいよ、辰は、海馬と同じだろうか。 ネタ切れか? 分けたことに意味があるのか」
「ぬいぐるみがたりなかったのかも。マニアックな感じするし」
縞は特には反応せずにまた呟いていく。
「猿、といえば、ミラーニューロンは偶然見つかったと言われているらしい?研究者がアイスクリームを食べるのを見て、猿の脳も同じように反応したとかで。
食べるという行為を、見ることによって重ね合わせていることがわかった」
本も、きっとそれなのだろうかと、僕は考えていた。



 僕がクレープの包みをくしゃっと丸めてズボンに突っ込むと、縞は残念そうな顔をした。
「くれたんじゃないんですか」
「少し食べたかったー」
ええ。食べちゃったよ。
「いつかお返ししますから、えっと、ごちそうさまです?」
「うううー」
なぜかこどものようにすねているが、放置して歩く。
「俺をおいてくとか、いい度胸してんじゃーん!」
とたとた走ってきて、僕の服のフードを引っ張る縞。
「の、のびるのびるー、離して」
「背が?」
失礼だった。
「どうみても洋服の方だよっ! 背は気にしてるんです!」
「お前が大好きな俺のジャージをあげよう。伸ばしてもおっけーだぞ」
ふふん、と誇らしそうにされる。少し可愛い。
大好きだと言っても損じゃないくらいには。
でもあれ着んのはやだわー。いや、真面目に考えてる場合じゃないな。

 
 少ししてまた着メロがなる。
くまばちの飛行。小さい頃、僕が非行かと思っていた曲。
しばらく縞が応答して、また着信。
『雨に唄えば』
だんだん方向がわからなくなってきた。
そしてまた着信。
……人ごとに、こまかく曲があるんだろう。
そして、しばらくしてから『金平糖の精の躍り』がかかった。
「やっほう!」
 縞がそう言って電話に出ると、幼く甲高い声。
『縞さんですね!』
「そうでーす。キュンストレーキは順調?」
『ピンセットを折っちゃった! なのな。だから、買い直しですねん。ウフフ! あと、樹脂次第だってな』
「そうかそうか。聞いといてなんだけど別のネタバレになるから割愛するな」
『クマはネネを殺す以外どうでもいいです!あんねー、手元に地図ある? 手羽先じゃないよ? というか、首の事件しってる?』
「今見たよー」
『今、出先? どうする? 着いてから?』
 何分で家に着くか聞かれて、たぶん20分以内と答える。近所だ。縞はいきなり言う。
「筆記用具とか借りたいんだけど」
え?
20分後。



アパートは坂のてっぺんにある。しかも後ろは山。
不便なので家賃は安い。此処は少し前爆破事件があった北海道のところと混同されて、えらいさわぎになったらしい。
 それは北海道在住の女性による、別の場所に住む相手への嫉妬やストレス発散などからネットに書き込まれたデマで後にその部分も書籍化されたのだが……
この街は北海道ではないので、さすがに地元住民の反感を買うこととなったりした。
 ドラマも、それを信じて製作されたくらいだったので、かなり当時はカオス化していたようだ。



 二階に上がって鍵を開ける。
いつも階段が抜け落ちそうでひやひやするので、体重制限に引っ掛かりそうな人は部屋に呼べない。 いや滅多に呼ばないけどさ。足元のほうには爆弾で焼け焦げたような跡はなかった。ただ昔はときどきゴキブリが現れていたようだ。
「ぼろいな」
と縞は素直にこぼしていた。
「真っ先にそんなわかりきったことを言わないでください。これでもバストイレつきで3万なんですよ!」
ドヤァ。
「俺が初めて袋入りラーメンを食べたときは、世の中すげーって思ったぜ」
いつなんだよ。
縞は、僕を無視して、しみじみと若者と思いがたい呟きをする。
「好きなんですか、ラーメン」
「いや、肉まんの横の黄色いからしが好きだな」
「そうですか」
 あれうまいよね。
なんて話をしながらも15分ほどで着いた部屋の中に縞を招く。
「病院の個室よりはマシだな」
目前の洋間と板間が中途半端に縦横に別れた部屋が横に二つ。
(なぜか木のドアで区切ってある)灰色のシンク。ユニットバス。剥げそうな嘘っぽい青いペンキで塗られた箱を、繋げて階段つけといたみたいな外観(失礼)から抱く印象よりは、中は新しい。



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