2014/9/24
Wed
12:28
刺蛾の繭
話題:創作小説
天気予報は今日も当らなかった。
降り注ぐ雨は黄色い傘の上を跳ねる。
斗真は雨に濡れた自分の靴を見た。
今日の遠足の為に今まで履かずにいた新品の靴は泥ですっかり汚れ、中まで浸水している。
雨なんて、嫌いだ。
この不快な感覚から一刻も早く解放されたかったので、両親から口うるさく「通るな」と言われていた近道を使うことにした。
廃墟が立ち並ぶ旧商店街は薄暗く、いつもの通学路より空気が冷たく感じた。
頭の片隅に「やめておけばよかった」と思ったが、今更引き返してもただの時間の無駄に過ぎない。
小走りに路地を行く。
雨が、強くなる。
ふと、いくつものの何かが聞こえた。
鳴き声というか叫び声というか雄叫びというか……それはすぐ近くからだった。
斗真が声のした方へ向かうと細い路地の先、血生臭い霧を漂わせている小さな公園で男たちが叫びながら争っている。
その中でひときわ目立つ銀髪の男に斗真は思わず魅入った。
一人、輪の中心で顔色も変えず刀を振るう姿が、テレビで観たピンチをものともせず切り抜けるヒーローと同じだった。
蠅のように集まっていた集団は数分で泥の上に横たえ、苦しそうな声もやがてなくなった。
雨音に包まれた公園。
返り血が雨と共に滴る銀髪の男が静かに刀を納めると、ようやく斗真を見た。
ひょっとしたら斗真がここに来たときには既にその存在を認識していたのかもしれない。
男が斗真の方へ歩んでくる。
動けない……。
恐怖からではない、ずっと見ていたかったからだ。
もしかしたら、このままあの転がってるやつらのように切り殺されるのかもしれない……なぜかそう、期待した。
男は斗真のそばに落ちていた傘を拾うとしゃがんで差し出した。
魅入っている間、無意識に手放してしまっていたようだ。
青い目の中に斗真が閉じ込められている。
透き通った、空のような青色。
斗真はぎこちなく傘を受け取ると小さく「ありがとう」と言った。
男はそれに答えるかのように少し笑って
「風邪ひくぞ」
と言い残し立ち去った。
[続]
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