2016/04/07 [Thu]
一次創作SS◆神様の事情
話題:創作小説
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◆神様の事情◆
ばさり、と大鳥が羽ばたくような音がして、机の上にはまた書類の山が増えていく。うんざりした目で僕がそれを見つめていると、手ぶらになった女性が腰に手を当て、似たような目で僕を見下ろしてくる。
本当は彼女よりも僕の方が上のはずなんだけど、綺麗に纏め上げられた茶色の髪と眼鏡の奥のつり目。そして一切乱れのないスーツ姿が、その態度に文句も言えなくなる程の威圧感を出していた。
「……早く片付けないからこういう事になるんですよ」
「……わかってるよ」
大して整っていなかった髪を更にぐしゃぐしゃにして、僕は投げ遣り気味に返す。
やらなきゃいけないって事はわかっているんだけど。こう、上手く動けない時だってあるじゃないか。無理に動いたってどうせ結果は良くないものになるし。
そんな気分になる時くらい、僕にだってあるよ。
「何でカミサマは僕みたいなのを創ったのかね」
「何変な事言ってるんですか。神様は貴方でしょうに、全く」
「……まあ、そうなんだけどさ」
地が育まれ、生物が増え、奇跡が起こる事を人間達は願った。この世界を覗いていた僕はたまたまそう言った力を持っていたから行使した。それで人は僕を神様と呼んだ。
けれども願いが叶うと次から次へと新たな願いを掛け始める。その量たるや、机の惨状をご覧の通り。これが全て処理できない時、彼らは僕に恨みの言葉を吐く。
僕はただ必死に彼らの願いを叶え続けるしかないのだ。それでいて恨みの言葉を吐き続けられる。
「時々、何が本当のカミサマなんだかわからなくなるんだよ」
地を育ませ、生物を増やし、奇跡を起こす事を神様と言うならば、本当の神様は要求して叶わせている人間達の事ではないだろうか。
それならば神様は何故僕を創った?
もしも全ての源を生み出した存在を指すならば、それも違う。人間も小さな世界も初めからあった。何より僕は、気が付けばいた。
この存在をカミサマと言うならば、なあ、カミサマ。何故僕を創ったんだ?
「ああ、頭が痛くなりそうだ」
「良かったです。ようやく取り掛かる決意をして頂けたのですね」
「はいはい」
溜め息をした後、一番上の紙を手に取って、書かれた願いをイメージする。体の中に流れた力を使って、乾いた大地に雨雲を作り出した。
チェックと捺印を済ませると、直ぐさま次の一枚を掴みまた強く念じて魔法を使う。数枚こなしたところですっかり体が怠くなる。けれども少しでも休めば追い付かなくなる。今だって追い付かないけど。
「はあ……明日、試しに死んでみようかな」
「神様が死ねるわけないでしょう。ふざけた事を言っていないで早く仕事をしてください」