最近、テレビの特番とか、ドラマとかでも取り上げられることが多い。
だから、奴らがどんな事をして、何が目的なのか、多少の知識はある。
俺の個人的な主観もあるかもしれないし、俺の意見が世間のそれと合致しないのは分かっている。
でも、はっきり言ってあいつらは最低だ。
…ホストってやつは。

自分に集る女をくいもんにして、金を巻き上げてるようにしか見えない。

俺は住む世界が違うから、やつらがどんなことをしようと、どんな人間かさえも関係ないと思っていた。


なのに。



俺は無我夢中で走っていた。

土砂降りの雨の中、傘も忘れて。


一体、自分がどこに向かっているのかわからなかった。
自分自身も、俺の気持ちも。




走り着いた先は、学校だった。

いつも通いなれた道を、無意識に走ってきたらしい。

俺は部長だから、マウンドに入れる鍵を預かっていた。幸い、大切なものだからなくさないように財布に入れてある事を思い出し、いつも球を握っているグラウンドに入った。



俺は野球一筋だった筈だ。

高校生活は、野球を謳歌して終わろうと決めていた。

なのに、俺の弱い意思がその道を脱線した。

これは、その罰なんだ。

…そうだ。そうだよ。

最初から、俺には野球しか無いんだ。


変に恋愛なんて夢見るから、こんな事になったんだ…!!



俺を癒してくれるのは、いつも手の中に納まっているボールだけだ。
その感触を確かめたら、また元の俺に戻れるかもしれない。


俺は倉庫の鍵を開け、ボールの入った籠を取り出し、マウンドに立った。




全てを振り払うために。




全部、俺が悪い。



ギンジさんがホストをやってたって、それは彼の勝手だ。

彼に踊らされるような弱い精神の、俺が悪いんだ…!!




一球、二球。



受け取られることのない球が、フェンスにぶつかっては下に落ちる。

何球投げれば、俺は吹っ切れるんだろう。

分からない。

ただ、分かるのは、吹っ切れるまで投げればいいって事だけだ。


そして、何球か投げた頃。



「アッシューーーー!!!」



聞きなれた弟の声。

俺を懸命に引きとめようと声を張り上げ、近寄ろうとしてきた。


「来るな!!!」


俺は二人を引きとめ、続けた。


どんな言葉を掛けられようと、俺にはこうするしかない。

きっとあいつらは、俺を何とか慰めようと甘い言葉をかけてくるだろう。

だが、そんな言葉は要らない。
もう、終わりにするんだから。

そう、思ってたのに。





心の底で求めていた。

きっと、ここに来てくれると、どこかで思っていた。

あの人の声が聞こえた。


「よー、クソガキ。」


深く、深く響いたその声の主が、まるで眩い光を纏ったように眼前に現れた。