まだ梅雨の明けきらない鈍よりとした雲の下。
講義が終わって、いつものようにルークの家に向かった。

ルークに惚れてるって気持ちに気付かされて数週間。この空に負けないくらい心に靄のかかった俺。

晴れてアッシュ君と付き合うことになったギンジは俺とは違い、梅雨の湿気も吹き飛ぶような清々しい気分だろう。

なんて思いながら歩いていると、いつのまにかルークの家にたどり着いた。

「ガイさん!今日はちょっと早かったね。」

「ああ、雨降り出しそうだったから急いで来たよ。」

「そっか。あーでももう7時か。日が長くて全然気付かなかった。」

そう言いながら机を片付けるルークの様子を見ていると、見慣れないものが机の上に置いてある事に気が付いた。

「ん?ルーク…それ何?」

何、と言うかどう見ても草だった。
細長い形の背丈の高い雑草が一本、壁に立て掛けられている。

「これ?うん…今日七夕だから。」

「あ、もしかして笹の代わり?」

ルークは恥ずかしいのか正解、と言いながら頬を少し赤らめた。

笹が欲しいなら買ってきてやったものを。少年みたいな発想が何とも弄らしい。
「ま、子供だましだけど…願掛けでもしよっかなって思ってさ。」

「そっか〜。じゃあ俺も何か書こうかな。」

「ガイさんも願掛けするようなことあるの?」

就職も決まってもう安泰なのに、とルークは首を傾げたが、少ししてはっと気づいたように目を見開いた。
「あ…そっか。好きな子と付き合えるようにとか、そっち系?」

「あは、ばれたか。」


そうだよ。


俺のかける願いなんて一つしかない。

ルークを俺のモノにしたい。


ただ、それだけ。


「…と、見せかけて…」

俺はルークから一つ短冊をもらうと、ペンを滑らせた。

ルークが受験を成功するように、と。


「…よし、出来た。」

「なんだー、彼女と付き合えますようにとかじゃないんだ〜?つまんねーの!」

俺の書き上げた短冊を草にくくりながらルークは笑ってそう言った。

「ルークの部屋に俺の個人的な願いなんて書けるわけないだろ。」

引き裂かれた夫婦が、年に一度だけ赦された逢い引きの日。

そんな日にルークと過ごせるだけでうれしい…なんて、いつからこんなにもロマンチスト思考になったんだか。


授業が終わると、俺は一枚短冊をもらって帰った。

帰りのバスの中、揺られながら書いた願い。

『ルークに想いが通じますように』。

バスを降りると、あれだけ雲に覆われていた空が嘘のようにクリアな星空を映していた。

天の川を挟む二つの星が、俺の願いを聞き入れてくれたように、瞬いていた。