翌日。
授業も身にならなかった。
それは、自分の常識では考えられない事が起きたからだ。
俺、今までこういうときどうしてた?
自分一人で悩んで、解決してきた筈なのに。
今回ばかりは余りに不測の事態で、答えが出て来ない。
どうすればいいんだ…
あ…待てよ。
いるじゃねーか、打ってつけの奴が!
何で今まで忘れてたんだ!?
部活終わってソッコーで家に帰り、ルークの部屋をノックした。
ルークは部屋にいた。
居たは居たんだが。
今週の頭からずっとそうだった。
俺の回りで色々起きてて、ルークの変化をすっかり忘れてた。
ガイさんに気持ち悪いとか言われてたんだよな…。
あと、実はガイさんと両想いなんだって聞かされたんだった…!こんな重要な事まで忘れてた…。
でも、これは本人たちの問題だ。俺が口を挟んでいい問題では、当然ない。知らないフリが一番だ。
それに、今は俺の悩みを聞いてもらいたい。
正直に全部話した。
ギンジさんに告られたこと。
そしたら、さすがのルークもビビってた。んで、逆に男にコクられて気持ち悪いのかとか聞いてきて。
そっか、気になるよなと思ってそこは正直に話した。ちゅーか、お前両想いなんだって…。そんな悩む必要ねーんだって。
まあそれは置いといて、俺の答えはこれだ。
「俺はソノケはないけどギンジさんのことは嫌いじゃないし、今すぐどうこうは考えられない」。
…ん?
そっか。
そうだよ。
冷静に考えたらそれが全てだ。
今すぐには考えられないなら、ゆっくり考えて行けばいいじゃないか。
何も、男だからってギンジさんの想いを真っ向から跳ね退けることもない。ちゃんと考えた上でダメならダメでしかたねーし、ギンジさんも納得してくれるだろう。そーじゃん、そーなんじゃん。何悩んでたんだろ?
でも。
ルークから返って来た答えは、もう想いは諦めていいから普通のいい関係でいたい、だった。
あああ!違うって!そんな必要ねーんだって!
教えてやりたいのは山々だけど、何度も言うがこれはルーク自身の問題だ。ルークがそう決めた以上、俺は口出し出来ない。
って考えてたら、ルークの携帯が鳴った。
ガイさんからだ。
声がでかくて、会話はモロぎこえだ。今からルークを迎えに来るって。
良かったなとルークを見送って、自分の部屋に戻った。これで、ちょっとは関係が改善するかもしれないし、もしかしたらガイさんの方からコクってくれるかもしれない。
ほっと胸を撫で下ろした時だった。
計ったように俺のケータイが鳴った。
…ギンジさんだ。
恐る恐る出ると、意外にいつもと変わらない感じで、ちょっと調子が狂った。
「よ、アッシュ。今よ〜、ガイがそっち行っただろ?俺、昨日の事あいつに相談したんだけどさ。そしたらあいつの方がルークの態度に悩んでてよ〜、俺が今すぐ拉致りに行けってアドバイスしたってわけよ。んとに、せっかく両想いなのにな〜?はがゆいっつーか、なんっつーか。」
そういって笑い出すギンジさんに、少しホッとしたと同時に、俺の事を相談したことを俺に話すか?と思ったら、何かギンジさんらしーな、と思ってちょっと可愛く思えた。
「そーですよね。俺もルーク見てて歯痒かったです。ていうか、ありがとうございます。ギンジさんのおかげで、うまくいくかもしれないですし」
「そりゃ、うまくいってほしいっしょ。俺らくっついたらダブルカップルだべ?」
しれっとそんなことを言ってのけるギンジさんは、一体どこからそんな自信が沸いて来るのか。でも、そういうとこは実は嫌いじゃなかったりする。
しばらく黙ってたら、ギンジさんの方から話してきた。
「そうそう、あと、俺に敬語とかやめろよ?喋りにくいったらねーや。」
「えっ…そ、そんなこと言われても…!」
上下関係厳しい運動部にいたら、目上に対する礼儀は絶対だ。急にやめろと言われても困る。
「ま、徐々にそうしてってよ。んで、距離縮めてこーな?」
語尾にハートマークがついてんじゃねーかと思うような口調でそんなこと言われて、何だか恥ずかしくなってえっと…とか吃ってたら、日曜日デートしよとか誘われて、おやすみ、愛してるって言われて電話切った。
あ…
愛してるって…!
あ、やば…
だ、だから!ギンジさんは男なんだって!
何でこんなにドキドキしてんの俺!?ソノケないよな、俺!?
色んなことありすぎて頭がついていきません。ギンジさん、返事は遅くなると思います。ごめんなさい。
そんなことを思いつつ、俺は今のこの俺の状態が既にギンジさんにハマってるって事に、全く気づいていなかった。
ギンジさんの声が、耳に残って離れない。
…「愛してる」…って言葉が。