「ありがとうございました!また宜しくおねがいします!!」
ここは『R.B.M』JR名古屋高島屋店。
俺は今ここでショップ店員のアルバイトをしている。
バイトに入る日は週4回くらいだ。
大好きなアパレルショップなので、ここで働ける事を誇りに思っている。
働きが認められて、来年からここでの正規就職も決まった。
もうすぐで、バイクを買う金も溜まりそうだ。
全てが順調で、順風満帆な人生だが、余裕が出来たからこそ少し隙間風を感じるようになった。
俺の親友は女遊びが好きでいつも誰かの影があるのに対し、俺はというと…。
「なあ、ガイラルディア。今度コンパやるんだけど、こねぇ?一人空いてるんだよ〜。埋め合わせ頼むよ!!お前なら絶対喜ばれるし!」
「コンパですか?…うーん…。」
「暇なら頼むよ!次の金曜日なんだけどさ!7時から駅地下の店なんだけど、ここ終わってからでいいからさ〜。」
コンパは正直好きじゃないけど、ぽっかりあいた穴を埋めるには丁度いいかもしれない。俺のポリシーには、少し反するけど。
「…いいですよ。じゃあ空けときます。」
「すまんな!可愛い女の子ばっかりだからさ〜!!楽しみにしてろよ?」
8時、閉店。
先輩からの誘いで断りづらかったのもあるけど…。
乗るんじゃなかった。正直億劫だ。
俺の人生のぽっかり空いた穴の理由。それは…
彼女が居ない事だ。
いや、好きな人…というか、熱中できる誰かがいない、という事…と言った方が正しいか。
女の子と付き合った事は何度かある。
でも、その全てが向こうからのアプローチだった。
好いてくれるならまあ、いいかというノリで付き合ってきた。
そこに気持ちがあるのか分からなかった。
ただ、そんな日々が続くたびに気持ちがないのに欲求処理をしているという自分に気が付いた。
はっきり言って最低だ。
だが、男の体というものはいかんせん正直で、俺だって例外じゃない。
迫られればそれなりの正直な反応をしてしまうというのが男の性だ。
でも、理性がこれはいけないと警告している気がして。
そんなこんなで、ここ2年くらい彼女を作れないで…いや、作らないでいる。
誰もが俺の心を揺さぶるような相手ではなかった。
みんないい子だけど、好きになるかどうかは別問題。
贅沢な悩みだと言われても、こればかりはどうしようもない。
そんな日常のなかに身を置く毎日だった。
「ガイラルディア〜!今日、頼むな!」
「はい…解ってます。」
先輩から誘われたコンパ当日。
いつものようにショップに入り、散らかった商品を整理していたところだ。
今日は金曜日だったから客の入りも上々。今日で予算クリアできそうな勢いだ。
今日は調子がいい。このまま、いいことでもありそうな予感がする。
棚の畳みものを整理し終わって、ショーケースの小物の整理をしようとした時だった。
ん?誰か来た…。
朱い髪の男の子が、ショウウインドウをまじまじと見つめている。
髪しか見えないけど、その髪の色は俺の興味をそそるのに十分な印象だった。
(声かけてみよっかな?すげー、今どきあんな張り付いて見てるやついねーし…)
おれはそのちょっと微笑ましい客に近寄って、声を掛けた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
次の瞬間。
心臓が踊るって、こう言う事なんだろうか。
なぜだかは分からない。でも、確かに心の奥に何かが響いた感覚がした。
少年は俺の方を振り向いて、固まっているようだった。
こういうところに慣れていないのか、少しぎくしゃくしているようにも感じた。
「あ…俺」
恐る恐る答える彼が、妙に印象的だった。
「?どうしました?」
なぜか、固まる彼。
齢は…高校生くらいか。16.7かな。
俺が声をかけても、緊張しているようでなかなか反応してくれない。
…いまどき珍しい。
俺は…彼に興味を持ったんだろうか。
言葉巧みに中に誘い込み、色々商品を見せた。
なぜか、彼に接客するのは仕事に感じない。商品を見つくろうのが楽しかったほどだ。
双子のお兄さんへのプレゼントを探しているようで、優しい子なんだなと思った。
こんな子の双子なんて、揃って並んでるところを見てみたい。
あっという間に時間は過ぎて、閉店時間を迎えた。
帰りの電車の中。
何故か離れない、あの子の顔。
…今時ウブそうで可愛かった。
なんで、こんなにも気になるんだろう。
帰りにちゃっかり名刺まで渡した。
普通、メーカーとか得意先に渡すもので、一般客になんて渡さない。
なのに、何故か俺を知ってもらいたい気分になって、渡してしまった。
…あの子、どういう子なんだろう。
どこに住んでるんだろう?
…もう一度、来ないかな…。
JR岐阜駅到着。
と共に、携帯の着信音が鳴る。
あ…!忘れてた!!
先輩だ…!!
あの子を見てからずっと、あの子のことばかり考えてて忘れてた…
…コンパ、ブッチしちまった…。
怒ってるかな?
…怒ってるよな…。
あちゃー…。
どんだけ上の空だったんだ、俺。
でも、それほどに。
あの子が気になって、仕方無かった。
思いつかない言い訳を必死で考えながら、覚悟を決めて通話ボタンを押した。
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初めて逢った日、ガイ編です。
ガイ視点って楽しいvルクたんに対する妄想が広がってくる…!!
だから自慰なんてするハメにw