五年前に亡くなった85歳の祖父。その祖父から聞いた話。
祖父は若い頃、仕事場まで自転車にのって通勤していた。途中に大きな橋を渡る。
橋の下は一段低い土地があり、その土地の端は5メートル程の崖になっていて、その下を川が流れていた。その土地に病院があった。
ある夜、残業した祖父は水泳で誰かが水に飛び込んだような音を聞いた。
そして、祖父はその病院で以前、夜に眠れなくて家族に頼み、外に散歩に連れ出してもらったはいいが、あやまって川に落ち助からなかった患者の話を聞いていた。一緒にいた家族も雨上がりの速い川の流れにどうしようもなかったらしい。その日も雨上がりの川に流れの速い日だった。
祖父は念のため、自転車で病院に行き、今、音を聞いた事を話した。
以前、事故があった時に病院は崖側に柵をつくっていたが、崖は乗り越えられなくもない状態だった。
その数日後に祖父は軽い交通事故にあって、偶然にもその病院に入院することになった。ある夜、看護婦さんが急いだ様子で患者がいるか見回りにきた。
その看護婦さんが出て行ってから祖父は同室の人に話し掛けられた。
「知ってるか? 以前ここに入院していた奴、崖から落ちて死んだが、あれは実は家族に突き落とされたという噂があってな、時々、雨上がりの今の時間、そいつが川に落ちた時間になると、川に人が落ちた音を聞いたが、患者がもしかしたらまた落ちたりしてるんじゃないかと病院に連絡が入ったりするんだ。看護婦も大変だな。一応、見回りしなくちゃいかん。…でも、あの音は、突き落とされて水に落ちた時の音なんだ」
祖父は退院して、再び自転車で通勤するようになった。事故にあったことも忘れた頃、ある残業をした夜に、祖父は雨上がりの橋の上で再び音を聞いた。
そして、雨上がりには二度とその道を通らなかった。