あの日、
なんてことなく知り合ったあなたと
またこうして会えることは
奇跡に少し近いくらいのことで
久しぶりに会うあなたに
顔を綻ばせるのは何度目だろう



手を繋ぐことはとても苦手だった
見知らぬ土地がそうさせるのか
会えない時間がそうさせたのか
自分よりも何回りも大きい手のひらに包まれる温かさは
冬の寒さを忘れさせた


変わらない笑顔に
変わらない穏やかな話し方
変わらないずるさと
変わらない余裕
わたしが勝てるとこなんてなくて
ずっとうまく扱われて
そんなところがやっぱり好きだと思った


抱きしめられて
一瞬でホックを外される
慣れた手つきが悔しいのに
身を委ねるのに時間はかからなくて
またわたしは情けなく敗北した

気持ちよさが苦しくて
やめてと懇願するわたしに
やめてあげると思う?と笑うあのひとが
どうしようもなく好きで



わたしはあのひとの素性を知らない
知る必要もないと思った
知って輪郭がはっきりしてしまうのを
恐れてるといえばそうなのかもしれない


あのひとは私の欲しい言葉をいつもくれた
きっとそうしてくれるとわたしも分かっていた
だからぽろぽろと色んなことを話した
後にも先にも他人に感情を垂れ流すことはない
あのひとの輪郭を鮮明にするよりも
自分という存在を知られてしまう方がこわかった

きっとあなたがすぐに忘れてしまっても
傷つかないために、大丈夫なように
そうやって保険をかけてきた



名前のない関係に
責任のない間柄に
意味を求めるのはバカらしくて

代わりに心地良さを選んできたわたしに
ツケがまわってくる日はあるんだろうか


潜在意識としてわかってたんだ
手の届かない人だということを
到底わたしなんかじゃ及ばないことを
彼の望むものをわたしは与えられない

だから
その笑顔に、温もりに、しあわせを感じても
わたしの気持ちを重ねることだけは絶対にしない

いつまで続くか分からないひとときを
あなたが少し覚えてくれていたらそれでいい

こんな愚かなわたしを
仕方ない子だね、と笑っていて




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